まるさんかくしかく | ナノ
「三郎、あのね…」
最近、三郎と二人で過ごす時間が増えたと思う。それは私にとって嬉しいことではあるけど、それは同時に級友の彼らと過ごす時間が減ったということでもあり、些か淋しいという気持ちも浮かんできた。
「私、宮崎さんの部屋に行ったでしょう?」
「ああ。何かあったのか?」
「何かって言うかね、うーん……好きって言われた」
「…は?」
「あは、…びっくり、した?」
「…で?なまえは何て答えたんだ?」
「え…、『ありがとうございます』って。ねえ、どういう意味だと思う?」
好き、と。そうはっきり言われたけれど。それにどんな意味が込められていたのか私にはわからなかった。どう答えていいのかもわからなかった。だから、ありがとう、と曖昧に笑うことしか出来なかった。
「…さあ。私は宮崎ではないからな」
「うーん、まあ…そうだよ、ね」
わからない。でも、あまり深く深く考えたって仕方ない、と思う。きっと。私は彼女が苦手だけれど、彼女と直接何かあった訳ではないし、私が一方的に苦手意識を持っているだけ。
「それでね、…私、ずっと考えてたんだけど……雷蔵たちとちゃんと話がしたいの」
「…!」
「でも、さ。今までなんとなく避けちゃってたし、…それに、」
「なまえ、」
「っ、え?」
「私も一緒に行く。だから、そんな泣きそうな顔をするな」
真剣な表情。真っ直ぐ私を見つめる、きれいな二つの目。私の言いたいことなんて、最後まで口にしなくても全て見透かされている。三郎は、その大きくて少し体温の低い手で私の頭をくしゃり、と優しく撫で、立ち上がった。
「今なら三人共、長屋にいる筈だ。話がしたいなら行くぞ」
「い、今から?」
「ああ。行かないなら置いてく」
「ちょ、ちょっと待って!行く、行くから!」
既に歩き出している三郎の後を追う。その背中がなんだか広く見えた。不思議と、不安な気持ちは薄まったような気がする。
何度も足を運んだ忍たま五年生の長屋。不安な気持ちが薄まったと言っても、不安なものは不安で。目的地に近付くにつれて、緊張が高まっていく。
「……あ、」
あの部屋だ。戸は閉められているけど、なんとなく、雰囲気でわかった。
ぴたり。三郎がその部屋より手前で足を止めた。中から少し、ほんの少し、話し声が聞こえる。
「俺、宮崎さんのことが好きなんだ」
間違える筈がない。これは、兵助の声。
「僕も、だよ」「俺もだ」
続いて、雷蔵、ハチの声。
わかってたこと
(心の何処かでわかってはいたんだよ)(見えないフリをしてただけ)(だって、みんなをあの子にとられたみたいで)(淋しかったの)