まるさんかくしかく | ナノ




廊下を歩いてると、ぱたぱたとこちらに向かって走る音が聞こえてきた。ここで足音を立てて走るのは、まだ幼い低学年か小松田さんくらい。そう思って特に気にも留めずに歩き続けた。けれど、その足音の主は可愛い後輩でもなければ、ましてや小松田さんでもなかった。


「こんにちは、みょうじさん」

「こんにち、は」

そう、あの娘。宮崎芽衣さん。思いがけない人物の登場に少しだけ驚いた。

「私、みょうじさんとお話ししたいことがたくさんあるんです!えっと、」

「…ごめんなさい、宮崎さん。もう次の授業が始まってしまうのでちょっと…」

「あ!そうですよね。私こそごめんなさい。そんなことにも気づかないで…」


申し訳なさそうな表情をする宮崎さんに、微かにだけれど胸がちくりと痛んだ。別に彼女が悪いわけではないのだ。話って…何だろう。この前、話している途中で急に抜けたこと、やっぱり気を悪くさせてしまったのかな。何にせよ、彼女と二人きりで話すことになるのは避けたいというのが本心だ。授業が間近に迫っていることが今は有り難く感じた。


「あ、あの…それじゃあ今日の夜、私の部屋に来ませんか?」

「えっ?いや、えっと…」

「どうしても話したいことがあるんです。お願いします…!」

「…では、夕食の後に伺います」

「あ、有り難うございます!楽しみにしてますね!」


ああ、やってしまった。こんなときに断りきれない自分の性格が恨めしい。














「おい、なまえ、」

「………」

「…なまえっ」

「えっ?あ、ごめん三郎。呼んでた?」

「はあ…、何を考えていたんだ?」

「あー、…湯豆腐おいしいなあ、って」

「そうか。で?」


む、無視しなくてもいいじゃん。湯豆腐がおいしいのは本当なんだし。兵助が聞いたら怒るよ。…兵助、かあ。最近喋ってないな…。雷蔵も、ハチも。元気かな。三郎に聞けば早いのだろうけど、そういう気にはなれなかった。


「…このあとの逢い引きのこと、考えてたの」

「逢い引き?」

「えへ、気になる?」

「誰とだ」


あ、れ…れ?もしかして、怒って、る?ぽかん、として質問に答えない私に余計苛ついたのか、三郎の眉間にどんどん皺が寄っていく。


「お、女の子だよ」

「なんだ、くのたまか」

「ううん」

「はあ?じゃあ、」

「みょうじさん!先に食べ終わったので迎えに来ちゃいました」


三郎が今度は唖然とした表情でこちらを見てくる。わかった?女の子だけど、くのたまではない。そういうことです。









お話ししましょう
(お部屋、何処にあるんだろう)(そういえば彼女のこと、何も知らない)(まあ、いっか)



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