まるさんかくしかく | ナノ




私たちの中心にはいつもなまえがいた。私はなまえのことがずっと前から…いや、出会ったときには既に好きだった気がする。それは勿論、友人としての意味ではない。誰も口には出さなかったが、私たちは四人ともなまえに同じ感情を抱いていたはずだ。

そして、いつだかなまえが言ってたように、毎日が幸せだと、そう感じていた。


しかし、そんな平和な日常に空から降ってきたという、不可解な女が現れた。学園全体が彼女に恋をしていた。(あの潮江先輩さえも彼女に好意を寄せているというのだから驚きだ)噂によると、たくさんの恋人たちが別れたらしい。言うまでもなく、原因は例の女だ。それでも、私たちだけは変わらないと思っていた。

が、何事も変わらないというのは有り得ないらしい。


なまえが学園長のおつかいに行った日(優秀ななまえが頼まれたのだ)(危険な忍務なのだろう)、あの女──宮崎芽衣が私たち四人に話し掛けてきた。


「こんにちはっ、はじめまして!宮崎芽衣といいます。よろしくね!」


そう言ってにこにこと笑うそいつに対してあぁ、よろしく、とそれぞれに応え、軽く自己紹介をする。
そこで私は信じられないものを見てしまった。雷蔵が頬を薄く赤らめて宮崎を見つめているのだ。よく見ると兵助もハチも同じ状態だった。

なんでだ。私にはわからない。お前らは揃いも揃ってこんな女に今の一瞬で恋に落ちたと言うのか。なんて馬鹿げた話だ。

「みんなみょうじさんといつも一緒にいるよね。今日は一緒じゃないの?」

「なまえ?なまえは今おつかいに行ってるんだ」

「なまえと知り合いなの?」

「えっと、知り合いというか…この間、困っているところを助けてもらったの」

「へぇ、そうだったのか」

「なまえなら一週間くらいしたら帰ってくるよ」


宮崎と三人が話している間、私は口を挟まずに観察していた。この女は何かおかしい。何が、と問われたら分からないが普通の人間とは違う、確かな違和感があった。この女の目的は何なのだろうか。



その日から宮崎は毎日私たちのところへ来た。毎日来てはみょうじさんはまだ帰ってこないのか、みょうじさんの好きなものは、嫌いなものは、と口を開けばなまえのことばかりだった。それでも宮崎と話せることが余程嬉しいのか、雷蔵たち三人はとても幸せそうだった。



そんな日々が続き、なまえが帰ってくる日になった。いつも通り、宮崎は私たちのもとへ来た。そんなになまえが気になるなら門の所で待ってればいいだろうに。そもそもこいつは仕事をしてるのか。こんなのが職場に来て、小松田さんも可哀相な人だ。


「ねぇ、みょうじさんはまだ帰らないの?」

「なまえ?」

「一週間つってたからもうすぐ帰ってくるんじゃないか?」

「そんなことよりさ、」


耳を疑った。は?今、何と言った?『そんなこと』?お前らはなまえを『そんなこと』だなんて言うのか。ふざけるな。お前らだってなまえが好きだったのだろう?それが今、どうしてこんなに変わってしまったんだ。

「おい、お前ら…」

さすがに頭にきて非難の言葉を吐こうとしたそのとき、私はなまえの存在に気付いた。そう遠くはない、会話の内容も聞こえるだろう、そんな距離にいた。

私は思わず駆け出した。なまえだ。なまえが帰ってきた。だが、なまえはいつも通りの笑顔ではなかった。普段から白い顔が今は青白く、普段は見せないひどく淋しそうな傷付いたような顔をしていた。それに、本人は隠してるつもりらしいが、足にひどい怪我をしているようだ。

不調を隠そうとするなまえを抱き上げて医務室に連れて行く途中、なまえが少し緊張したように『ただいま』と言ってきた。おつかいに行く前に約束していたことだ。…この場にあいつらはいないけれど。私が『おかえり』と返すと嬉しそうな、それでいて泣きそうな顔をしていた。その表情に思わず胸が締め付けられる。

私にはなまえがいればいい、本気でそう思った。あんな女、いらないんだ。いらないいらないいらない。なまえを傷付けるやつらが赦せない。あの女のせいでなまえが辛い思いをするなんて、ふざけてる。たとえ雷蔵や兵助、ハチでもこれ以上なまえを哀しませるというなら、私は容赦しない。そう決めた。









天才の決意
(私にはなまえが全てで)(なまえが私の世界の中心にいるのだ)(それはこれからもずっと変わらない)



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