まるさんかくしかく | ナノ
なんで私は宮崎芽衣という人間がこんなに苦手なのだろう。幸せそうに笑っている彼女をみてるとぞわぞわと何かが込み上げてくる。顔が嫌いな訳じゃない。性格だって、よく知らないけれど悪いとは思わない。もっと、もっと根本的な何かが私の中の醜い感情を刺激してくるのだ。
「…なまえ先輩、あの…大丈夫ですか?」
「え?」
「顔色悪いっすよ」
「…大丈夫だよ。ごめんね?心配させちゃって」
いけない、三之助に心配をかけてしまった。…しかし、どうしたものか。あそこを通らないといけないのに、今の私にはその勇気がない。だからと言って三之助を一人で行かせたらまた迷ってしまうだろう。うーん、面倒だけど回り道をしようか。
そのままぼんやりと彼らをみていると、三郎と目があった。私の存在に気付いたらしい。こちらに向かって走ってくる。
「おい、なまえ!いつ帰ったんだ、待ちくたびれたぞ」
「さぶろ…」
「…なんか、顔色悪くないか?」
「え、あ…いや、」
「それに……よし、医務室に行くぞ」
「だ、大丈夫だよ?ていうか三之助を教室に送らなきゃ…」
「なまえ先輩、ほんと医務室行った方がいいですよ。教室くらい一人で行けますし」
「そういうことだ。ほら、行くぞ」
「ひゃあっ!ちょ、三郎!?お、下ろして!」
あわわわわ、あろうことか私はいま三郎にお姫様抱っこをされている。なんでなんで!?恥ずかしすぎるんだけど…!
「あ、なまえ先輩。俺はずっとなまえ先輩の味方ですからね」
「へ…?あ、ありが、とう?」
「じゃ、お大事に」
すでに少し遠くにいる三之助に助けを求めようとすると、そう言われた。味方って…どういう意味なんだろう。それなら今助けて欲しかったよ…。まあ、嬉しいことには変わりはない。
「ねぇ三郎、下ろして?自分で歩けるから」
「断る」
「えー…」
「お前、足を怪我してるだろう」
「……!」
びっくりした。…本当になんで三郎にはなんでもわかっちゃうんだろう。不思議で仕方がない。思えば今まで私が三郎に隠し事を出来た試しがない気がする。はぁ、もうこうなったら大人しく諦めて連れて行ってもらおう。
「三之助、ちゃんと教室行けたかなあ…」
「迷ってもきっと富松あたりがどうにかしてくれるさ」
「…それもそっか」
うん、頑張れ作兵衛。
…、そういえば私は大事なことを忘れていた。最初からこれが目的だったというのに。
「三郎、」
「…医務室に着くまでは下ろさないからな」
「はは、それはもう諦めたよ。…ちがくて、ね…その、」
「なんだ」
「あー…、えっと、うん。…ただ、いま」
「…!」
なんでだろう、たった四文字の言葉なのにすごく緊張した。
「おかえり、なまえ」
見上げると三郎の笑顔が、いつもの意地悪でにやりとした不敵なものではなく、優しさに溢れていた。卑怯だ。そんな表情。三郎のせいでなんだか目が、心臓の奥が熱くなった。
欠けた約束
(約束は欠けたけど、)(私にはこのひとがいれば)(それだけでいいとさえ思えた)