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うやむやの寝具


※R18※




 フィガロのベッドは狭い。大人が一人眠れるサイズと言えば聞こえはいいが、大柄な男や寝相の悪いヤツには不便なくらいだ。彼の身長や体格を考えれば、もうワンサイズ大きなものが適しているのだろうが、「俺はほとんど寝返りを打たないからさ」などと、通るような通らないような理屈でのらくらと笑うばかり。
 とは言え現在のベッドそのものへの執着があるわけではないらしい。長らく酷使したせいであちこちガタがきているらしく、先日遂に馴染みの家具屋に新品の注文を検討し始めた。

「魔法で修理すればいいだろう」
「んー、でも結構傷んでるし」
「おまえならなんとでもなるじゃないか」
「何年もあの家具屋でも買い物をしてないから、そろそろ頃合いかなって。木材から選んでもらってさ」

 ファウストは背を向けているので、フィガロが今どんな顔をしているのかは分からない。声はいつもより浮ついて聞こえた。髪をひと房すくわれている。散々汗をかいた後なのではねのけたい気持ちはあったが、何せこの狭さだ。身じろぐのも面倒だし、既に事後で体力は枯渇気味。大人しくされるがまま。

「君の髪に似た色のベッドにしようかな」
「……なんでもいいけど、もう少し広いものにしたらどうだ」
「あはは。このくらいがいいじゃない」

 案の定の返答だったので、ファウストは短くため息をつく。肩が揺れ、毛先がフィガロの頬をかすめたらしい。「ふふ」とくすぐったそうに声を上げ、距離を取るどころかかえって距離を詰めてくる。
 肌と肌が触れる。まだ熱や汗の残る、生き物の感触。ファウストの額が、壁に触れた。逃げ場はない。加減をしながら抱きしめてくる腕に、そっと指先を這わす。

「狭いだろう」
「もっと広くしたら、ファウストはここに住んでくれたりする?」
「……そういう問題じゃない」
「一緒に住んでくれるなら、ベッドが広くなっても我慢するけどさ」
「……意味が分からないんだけど」

 そうでしょうともと言わんばかりに、フィガロが喉の奥でくつくつ笑う。湿った唇が首筋に吸い付いた。やっぱり狭い。






 ファウストの身体は硬い。昨今の引きこもり生活故というよりは、どうも生来の体質らしい。フィガロと出会ったばかりの頃も、文字通りその身に鞭打ってあちこち駆けずり回っていたころも、柔軟性の無さは皆が知るところだった。
 ファウスト本人も自覚の上でやや気にしている節はあったし、「フィガロ先生が柔らかくしてあげよう」と何かとちょっかいを出せば、戯れの一貫で受け入れたりもして、詰まるところ悪いことばかりでもないのである。少なくともフィガロにとっては。開脚が辛いだろうと気遣えば、騎乗位だの対面座位だのをさせる絶好の言い訳にもなった。もちろん正しく親切心と心配りによる結果である。どれほどの下心と欲情が混ざっているかは、敢えて伝える必要もあるまい。


「っおい、まさか、このまま…」
「ん、そう。このまま挿れるね」
「待、……っンあッ」

 後ろから抱きしめたまま、壁に押し付けるようにして挿入すると、上擦った嬌声が上がる。抱きしめていた細い体が、派手に震えた。

「ひっ、ぅあ……ッ、ア、っん」

 足を絡めたまま、押し上げるように抜き差しする。普段は当たらない内壁を、確めるように擦っていくせいで、戸惑うような反応がいちいち可愛かった。

「はっ、あ……っ、ん」
「……ああ、ごめんね」

 乱れた髪が、ファウスト自身の視界を塞ぐ。片足を支えていた手を一旦離し、背中側にかき上げてやると、ふいに指先にぬくもりを感じた。ファウストの薄い唇が、啄むように一瞬だけ口付けたのだと把握するや否や、フィガロは自らの質量に耐えきれず、つい最奥を突いてしまう。

「あっアア、やッ、なん、……っで、あっ、あ」
「今のは…っ、不可抗力でしょ……っっ」

 今夜はもっとゆっくり、時間をかけて甘やかしていくつもりだったのに。ほんの一粒の後悔が、快感の波であっけなく流されていく。壁とファウストの隙間に手を伸ばし、彼の勃ち上がりをいじめてやれば、触れた背筋が粟立ち、締め付けも一層強くなった。








「追い詰めないと、逃げられるとでも思ってるのか?」

 自分を包み込んだまま眠っている男に、ファウストはそう問いかける。当然返事はない。意識がないのを確認してから口を開いている。実際のところ、この男二人がそれぞれ逃げ続けている問題とは、ベッドの広さでもましてや体位でもない。