5 | ナノ


名前のはなし【その1】

 

 
「零兄、」
「っ」

その呼び名に、パアァッ、と実に嬉しそうな笑顔が零夜の顔に浮かぶ。

「聞きました要くん! 零兄ですよ“れいにい”!!」
「はぁ…」
「今までピンイン(中国語読み)で零哥(リングー)だったのが、とうとう零兄って呼んでくれたんですよ? 何でそんなリアクション薄いんですか。」
「そんな嬉しいもんすか?」
「しょうは最初から名前呼びだったから分かんないんですよ。ね、紗嗚、もう一回呼んでくれません?」
「零兄」
「♪」

 

 
「……零哥(リングー)ってピ●グーみたいで可愛いかったのに。」
「虹がそういうこと言ってっから会長があれだけのことで喜ぶんだよ。」


 

 

 

 

 
名前のはなし【その2】

「ところで何で“しらたま”なんだ? やっぱ白いからか?」

猫じゃらしを振ってじゃれつかせながら、しょうは何の気なしに名前の由来を問うてみた。この猫は結構学内を出入りしているため、思い思いの名前をつける者が多い。
 
「テメェに関係ねぇだr」
「それ、クンクンが…」「おい!」

 

−−…。

『名前?』
『そう…名前……』
『……“ネコ”じゃ駄目か?』
『だめ』

『……。』


だったらテメェがつけろよ、
そう思ったものの、一体何を期待しているのかジッとこちらを見上げる紗嗚に、薫も真剣に考え始める。

“『シロ』? いや、『ポチ』…じゃねぇか、『ミケ』でもねぇしなぁ”

頭は悪くないのに、なぜこうも発想力が乏しいのか。
その時、どこかの運動部の女子部員たちが、走り込みをしながらの会話がふと耳に届いた。

『ねぇねぇ、今度柏庵に出た宇治白玉クリームあんみつ、メチャメチャ美味しいらしいよ?』
『えー、じゃ、今日部活終わったらみんなで食べ行こっか?』
『!』

 

 

…−−。

「…それで“しらたま”になったと?」
「うん」
「…。」

2人で薫を見れば、決まり悪そうにそこから目を逸らす。

「………ぷっ、」

しょうの口が歪み、腹を抱えて盛大に笑い出す。

「ぎゃはははは、バカみてぇ! その会話で名前決められちまうとか! だったら別に“しらたま”じゃなくて“クリーム”でもいいじゃん。ネーミングセンス皆無かよ。」
「……」
「ホントお前って実際話してみると全然不良っぽくね」
「おい、」
「え?」


ゴンっ!!


という音とともに、しょうの顔が見事にプレスされる。低かった背が更に縮む感覚を味わった。

「あんま調子くれてっと殴るぞ。」
「殴ってから言うんじゃねぇ!!」

「………ばかしょう」

 




なんやかんやで仲むつまじい一年連中…

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