2 | ナノ
−−…。
「会長、どこ行ったんだろう。無事だよね?」
「あー、もう! さっきからそればっか!! あの人が無事じゃないわけないだろ!?」
あれからずっと、心配そうに零夜の向かった方を眺めている虹に、しょうが怒鳴った。その横では、二人によって捕縛された男達が、恨めしそうに此方を睨みつけている。
「……。」
逆に、要は先ほどから口を開こうともしない。
「? 七瀬先輩、どうしたんすか? …傷、痛みます?」
「………いや、」
ボーっと宙を見つめたまま答える要に、しょうが小さく溜め息。が、その時…
「七瀬君、傷心中ですか?」
「!」
ハッとしたように、要が顔を上げた。
「………神崎?」
「こんばんは、七瀬君、成宮君、虹。」
「…なんで、「あれ? 柚那じゃん。どうしたの? ってかいつの間に?」
要が言うより早く、一足遅れで気づいた虹が訊ねる。
柚那はチラリと捕縛された男達に視線を向けたが、
「つい先程、特売の帰りにそこを通りかかったら、皆さんの姿が見えたもので。」
「……相変わらず動じないですね、神崎先輩。…ん?」
淡々と答えた柚那の背後で、小さな影が動いた。
「!? 紗嗚!!」
「………夜の…散歩……」
「偶然そこで会ったものですから。」
眠たそうにポツリと呟いた紗嗚に、柚那が補足する。
“そんなことしてるから毎朝遅刻すんだろ…”
「…あれ? 柚那さんに紗嗚。どうしたんですか?」
「「「!?」」」
不意に、五人の後ろから安穏とした声がかけられた。
三人がバッと顔を向けると、待ちわびていた生徒会長の姿が。
「会長! どこいってたんですか!? 心配したんですよ!」
虹が我先にと零夜の元へ行く。
「すみません、お二人には追々事情を説明しますので…。要くん、お怪我の方は大丈夫ですか?」
「これくらい、なんともないです。それより会長、例の件は…」
「あぁ、それなら大丈夫ですよ。もう片がつきましたから。」
興奮する要を落ち着かせるように、零夜は答えた。掻い摘んで説明すると、要の前に腰を下ろし、向き合う形をとる。
「要くんにこんな怪我を負わせてしまうとは…。僕の失態ですね。申し訳ありません。」
「そんなッ、会長が謝ることはないでしょう! これは俺が至らなかっただけで…」
「しかし…、これでは何の為に要くんをこの件から引かせたのか分かりません。こうなることは予測出来ていたのに。」
「あ…」
“そ、それで昼間あんな…”
「それに要くん、あの時凄く哀しそうな顔してたじゃないですか。
それがずっと引っかかってしまって、…それも含めて謝らねばと。」
「!」
その言葉で、要の顔がサッと赤く染まった。
「べ、別に哀しそうな顔なんか!」
「してましたよ。それはもう、今にも泣き出しそうな顔で…」
「なッ!? 適当なこと言わないで下さい!! 誰が「へぇ〜、七瀬泣いたんだ。」
要の言葉を遮り、虹がニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる。
「ち、違ッ!」
「ええ、それはもう捨てられた子犬のような目で…」
「会長!!」
「ね、柚那さん?」「はい、まるで飼い主に見捨てられた子犬のようでした。」
「神崎!?」
「……ぼくも…見た……」
「え、マジで?」
「なッ、李…お前まで…」
「ふふっ、とても可愛らしかったですよ、要くん?」
必死に笑いを押し殺しながら、零夜は顔を真っ赤にして立ち尽くす要の肩にポンッと手を置いた。
「〜〜〜ッ、い、いい加減にして下さいッ!!」
要の叫び声とみんなの笑い声が、その夜の街に木霊した…。