ちびーずがんばる | ナノ
どうしよう。降りられない。
実はわたし、高いとこは苦手なんだ。高所恐怖症まではいかないけどね。
登るときはメロンパンや財布がかかってたしね、そりゃ無我夢中で這って登りますよ。命の次に大切なものだから。
でももうどっちもないもん。残ったのは、メロンパンが入ってた袋と汚れた手と足と制服だけ。
「どうしよう」
学ランの奴はこんな高いところを平然と登り、歩くのか。人間じゃないな全く。
この学園なんなんだ一体。
「うわっ!ちょ、鳥のうんこある!やだーっ」
至るところに鳥のうんこあって思うように動けない。
誰かにSOSしなきゃ!
「あ、ケータイ!」
…って、あ!教室じゃん!ブレザー教室に置きっぱだよ!うわぁ何てこったこんな時に!
助けも呼べないってオイ、これはいわゆる…。
どっと、冷や汗が出てきた。妙に心臓の音がでかく、速くなっていく。
じわじわと孤独感が体に広がっていく気がして、また泣きそうになった。
まさか一生ずっと1人でここにいるのかな?
あり得ないとわかっていても嫌な考えが頭をよぎる。
どうしよう、誰か…!!
その時、猫のような顔をした小さな女の子の顔が、ふっと脳裏に浮かんだ。
あ、そうだなーちゃん!なーちゃんがいる!
そうだよなーちゃん!
なーちゃんならきっと誰かに助け求めてくれてるはず…!わたし信じてる。
急に、元気がわいてきた気がした。
なーちゃんお願い!
そんな祈りが届いたのか、下からかすかに誰かがわたしの名前を呼んだ気がした。
「小山内ぃーっ!!」
成宮の声がした。
「今、助けるからなー!!」
あんたが?笑わせないでよ。
そう叫ぼうとしたけど、また喉に何か詰まったようで声が出なかった。
「しおりんーっ!!大丈夫ーっ!?今、パパが梯子持ってきてるからね!!もうちょっとだよ!」
なーちゃんの声も聞こえた。
助かったぁ。
わたしはホッとして胸を撫で下ろした。
「小山内さん!大丈夫ですか?」
どこかで聞いたことのある声が、近くで聞こえた。
あれ、誰だっけこの声。よく集会とかで聞くんだけどなー。
と、ひょこり、視界に白髪と光るメガネが入ってきた。
「あぁー!思い出した、生徒会長だ!」
「小山内さん!」
メガネの奥の、蒼い瞳がキラリと輝いた。
うん、みんな生徒会長を好きになる理由がわかる気がする。
「さぁ、助けに来ましたよ!僕の所まで来てください!」
と、言われてもな。今、動いたらわたし滑って落下するよ。
「だめ、会長。わたし今動いたら多分滑って落ちちゃう」
「じゃあ僕が貴女のところまで行きます」
躊躇うことなく会長は屋根に足をかけ、降り立った。
「確かに邱ですね。これは普通の人ならば這って登らなきゃダメですね」
そんなことをいいながら平然と屋根を歩いてくる会長。
やばい、会長普通じゃない!
しかもよくみると靴下!?え!?靴何で履いてないの!?
長い白髪が風で靡いてる。これで女子のハートをわしづかみにするんだな。
「さぁ、小山内さん。僕の手をとって」
もう目の前まで会長がいて、わたしに手を差しのべた。
「会長、ここ鳥のうんこだらけですよ…足、大丈夫ですか?」
一瞬きょとんとした表情になり、苦笑いを浮かべた。
「貴女を助けることができれば、どうってことありませんよ。さぁ」
わたしは会長の手をとった。
「さて。今から梯子のところに降りるのは難しいので、この屋根の頂上からあの家庭科室の広いベランダまで飛び降りますよ」
……え?飛ぶ?飛び降りる?
「ちょっと待って会長。無理だよ死んじゃいますよどのくらい高さあるのかご存知ですか?足の骨砕けますって」
「大丈夫ですよ。今、しょうと七海ちゃんがセーフティクッションを手配していますから」
セーフティクッションってスタントとかに使うあの緑のやつ?
でもそれを使ったってこの高さ…!無茶だ、絶対怪我するよ!
『会長、準備オッケーです!』
会長の手首から成宮の機械を通した声が聞こえてきた。
「わかりました。では、行きますよ」
にっこり微笑むと、いきなりわたしを抱き抱えた。
「ええええ!!?」
お姫様抱っこだと!!?
「しっかり掴まっていてくださいね!」
会長はそういうと、家庭科室のベランダまで全力疾走した。
そして踏みきり、高くジャンプ!
わぁあぁあぁあぁ!!!!
落下するときのあの、ふわって感じを受け、思わず目を瞑った。
ぼすっ。
柔らかい衝撃がした。
あれ、痛くない。
「しおりん!」
耳元でなーちゃんの声がして、むぎゅーっと抱き締められた。
「ごめんね!あたしが登ろうなんていいだしたから」
「大丈夫。なーちゃんのせいじゃないから」
「無事でよかったーっ!」
ゆっくりと目を開け、わたしは弱々しく微笑んでみせた。
とりあえず、わたし頑張ったなぁ。
なんだかホッとしたのか、気が遠くなってきたよ。
でも残念だなぁ。メロンパン食べられちゃって財布捨てられちゃって、頑張った意味、ないんだもん。
「頑張ったのになぁ…」
そう声にしたあと、わたしは気を失った。