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痴漢常習犯を鉄道警察に引き渡し、蘭への聴取はひとまず後日ということになった。
それはいいのだが、…少々過剰だった暴力行為により、現在、愼までお説教を受けるはめになっていた。

「そうですか。部の方が…。」
「ああ、だからそいつと似たようなカッコすれば、同じ奴がかかるかもしれねーと思ったんだ。…これでも一応女だしな。」
「わー、ランラン化粧してる。かわいー! スカートもいつもより短いし、何よりジャージはいてない。」

確かに、普段は男子と見紛う程だが、化粧一つで変わるものである。

「それにしても無茶をしますね。愼くんには黙ってたんでしょう? 一人で、もし何かあったら、」
「あの痴漢、今より酷いことになってたろうな。」
「……」

本当に女としての自覚があるのだろうか。

「危うく俺たちまで変質者扱いされるとこでしたよ。」
「あれ? 要くんたち、もう着替えてきちゃったんですか?」

どうりでいないと思ったら。
ウィッグが外され、見慣れた格好で戻ってきた要としょう。髪から顔にかけて僅かに濡れているのは、化粧を落とそうとしたためか、はたまた香水の香りを消したかったのか。

「あんな格好でいつまでもいられるわけないでしょう。」
「男子便所入った瞬間のざわめきと個室を出た時の空気といったら…」
「成宮、人形みたいでなかなか似合ってたけどな。」
「鳳!? 見てたのか!あれを。」

同学年の者に見られたのがトドメとなったのか、しょうはそのままふらふらとその場を離れると、再び壁に向かってしゃがみ込み、もはや再起不能と云わんばかりにうなだれてしまう。
すると要が、そんな蘭を一瞥し、眉を顰める。

「そんなことより鳳、お前…そのスカート丈は」
「ああ、悪い。成宮に負けないくらいかわいかったぜ、
先輩。」
「ッ…そ、そんなことで怒ってるんじゃない!!」

真っ赤。

「まあまあ要くん、事情とお叱りは後々ということで。…そろそろ急がないと、学校に遅刻してしまいますよ?」
「…あ、」
「愼くんも、どうやら終わったようですし。」

そう言われ零夜の後ろへ視線を向けると、
すっかり落ち着いた様子の愼が、そこに佇んでいた。

 

 

 

「……」

「……」

急いで学校に向かった生徒会と別れ、双子ものんびりではあるが、駅から学校へ続く道を歩いてゆく。

「ねぇ、
 蘭ちゃん、」

口火を切ったのは愼だった。
ここまでの道、2人は殆ど口を聞いていない。
いつもうるさいくらいに話しかけてくる愼が、言葉を発さなかったためだ。

そして今。
漸く口を開いて零れた愼の声は、いつも聞いているものよりずっと静かで…
どこか、沈んでいた。

「昔っから変わらないね。」
「あ?」
「何でも自分一人で決めて、勝手に突っ走って無茶するとこ。」
「……」
「でも、今回のはちょっとタチが悪いよ。」

そう言って、数歩先を歩いていた愼がこちらを振り返る。

ああ、そういう目をすると、ホント…

「悪かった…。」

普段温厚な奴を怒らすもんじゃない。あの野郎も、きっともう二度と痴漢したいとは思えないだろう。

「愼、」
「ん?」
「ありがとな。」
「…ずるいよなー蘭ちゃんは。オレの苦労とか心配とか、お構いなしに消してっちゃうんだから。」

蘭ちゃん追いかけるのに、オレがどれだけ苦労したと思って…
とかなんとか、何やらぶつぶつぼやく愼に、蘭はふと先刻の零夜の言葉を思い出した。

『一人で、もし何かあったら…』
「……」

それはねえよ、会長さん。
心の中で、彼女は密かに呟く。
いつだって、自分の傍にはコイツがいて。コイツとくれば、追い払っても追い払っても自分についてくる。おまけに考えてることまで見透かされて…。
今日だって、コイツがついてくることくらい、分かっていた。

−−だから俺は昔っから、お前の言う『無茶』とやらが出来るんだ。

「オムライス。」
「?」
「オムライスで許してあげる。」
「ああ、何でも奢ってやるよ。」

今日ばかりは仕方ない。

「違うよ、蘭ちゃんが作ったやつ。」
「………俺に作れると?」
「まずくても焦げててもいいからさ、作ってよ。『これでも一応女の子』なんでしょ?」
「…。」

 
−−溢れんばかりの笑顔で鬼畜なことを言ってよこすこの片割れに、
結局のところ俺は、頭が上がらない。

 

 

「食ったことねぇくらい不味いの作ってやるよ。」

 

end...

 

 

→後書き


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