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後ろ姿が大層好みで、人混みを縫うようにして少女の背後まで近づいた。
この制服は、恐らくあの学校だ。最近よくターゲットに選ぶこの学校の女生徒は、なかなか上玉が多い。
少し屈むと、黒い髪から覗く顔は、器量も文句なし。若干きつめのその目と、少々派手に施されたメイクがこれまたよくて、男は思わず舌なめずりをする。

そっ、と故意と分からない程度に手を掠めさせた。少女の身体がピクリと、僅かに反応を示す。が、こちらの方を見るわけでもなく、特に気にした様子もない。
いけるか?

今度はハッキリ分かるくらいに手のひらで臀部をタッチする。何、まだこれくらいなら全然言い逃れ出来るさ。

「っ、」

息を呑む気配。
これといった抵抗は…ない。

たまらず口角が上がる。徐々に手を這わせるようにしてゆくと、漸く「やめてください」などとほざいたものだが、だったらもっと抵抗すればいい。
みすみすやられ続けることを許すなんて…本当に最近の娘は、バカでやりやすいよ。

 

 

 

「何かありました?」
「…え、」

言葉を理解するのに時間がかかったのは、恐らく、彼が先刻から気をとられている『何か』のせいだろう。

「先程から、どこか上の空というか、心ここに非ずといった感じに見えますが。大丈夫ですか?」
「ハハッ、そんなことないよ? 大丈夫大丈夫。」

そう言って笑顔は見せるも、その雰囲気はやはりいつもとどこか違う。彼の周りの空気が、…なんというかこう、ピン…と張り詰めているのだ。
 

その時、

 
ピクッ

「? どうしました?愼くん。」

不意に小さく身体を揺らした愼に、横にいた零夜が小首を傾げる。

「………」
「し、」

再度声を掛けようとしたが、それはすぐさま躊躇われた。
愼がその場を離れ、あれよあれよと云う間に人混み掻き分け、どこかへ行ってしまったから。
いや、それよりも…あの目。
一点を、瞬きすることもなく見据え、鋭く研ぎ澄まさあの気に、とても声などかける気にはなれなかった。

「あれ?会長、鳳は?」
「…虹、ちょっと2人をお願いします。」
「え、…あ、ちょ、会長!?」

 

 

−−…

少女が降りるであろう学校の最寄り駅まであと少し。
名残惜しくて、その腰に手を回し、髪に顔を埋めると、少女の身体がびくりと揺れる。腰が弱いのか、もっと早く気づけばよかった。この子はあまり声を上げないタイプのようで、反応だけを頼りに触っていたのだ。
するとそこで、ふと少女の口が、数分ぶりに開かれた。

「いつもこんなことしてるの?」

驚いた。
痴漢した少女に、今まで質問されたことなどなかったから。
しかし、これは…チャンス、か?

「何だ、興味でも湧いたのか?」
「…。」
「そうだなぁ、教えてやってもいい。お前も、足りないんだろ?」

耳も弱かったのだろうか。
低く囁き入れると、これまでこれといった抵抗を見せなかった女がいきなり離れようとしたものだから、思わず空いた腕で後ろから抱き込み、拘束してしまった。
ハッと周りを見渡すが、どうやら特にこっちを気にしてる奴は見られない。再び少女の耳に口を近づけ、小さく、だが語気を強め、言ってやった。

「今更逃げようったって遅ぇよ。こんな時助けてくれるナイト様なんて、そう都合よくいねーんだからなぁ。」

ピタッ、と女の抵抗が止んだ。
ふっ、諦めたようだな。

「……いるさ。」
「あ?」

「ナイトなら、うざってーのが一人。」

何だ? 女の声音が、変わ…

 
ガッ!
「!?」
突然、後ろから何者かに腕を掴まれた。しまった、バレた!?

しかし、首だけ振り向かせると、そこにいたのは、目の前の女と同じくらいの小柄なガキで。制服を見ると、何やら同じ学校の男子のようだが、何、こんなガキくらいなら、どうにでも…

「おい」
「は?」

「汚い手で、蘭に…触るな。」

大きくはないのに、ハッキリと聞こえた言葉。ゾッ…となぜか背筋に薄ら寒いものを感じた瞬間、
男は自分の身体が、後ろへグイと反れるのを感じた。

「っ!?」

腕の中にいた女が素早く、そしていとも簡単に腕からすり抜けてゆく。
背中が床にたたきつけられる痛みと、間髪入れずに手が潰される激痛。

「い゛っ、ぎあぁ!!」

男の悲鳴に、車内がざわめき出す。

「ねー蘭、どこ触られたの。」
「ケツと腰。あと耳に気色わりぃ声で喋られた。」
「ふうん…。」
「ッ−−−!!」

男の手を踏みつけていた足に体重をかけ、靴底でグリグリと踏み潰してゆく。剣呑に細められた目に宿る光は、冷酷そのもので。

「愼くん!」
「愼、もういいからその辺にしとけ。」

人混み掻き分けやってきた零夜と、蘭に止められ、愼がその足をどけた頃には、男の手はそれはもう酷いものとなっていた。

 



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