それは、白昼に起きた。

「ひったっくりよーっ!!」

中年の女性が大声で叫んだ。街行く人達が一斉にさわぎだす。

「誰か!誰か捕まえて!」

そんな声を背中で聞きながら、黒ずくめの背の高い男は走っていった。
周りの通行人は呆気にとられて誰一人動こうとはしない。男は軽快に街中を走り抜けた。

(へっ…!!ちょろいぜ)

男は勝利を確信し、小脇に抱えていたシャネルのハンドバッグを強く握りしめた。
そしてほくそ笑みながら角を曲がったその時―、

「やっ…ぐはっ!!」

突然男の顔面に拳がめり込んだ。
吹っ飛ぶ男。宙に浮かぶハンドバッグ。

「いってぇ…!クソ、なんなんだ一体!?」

アスファルトに尻餅をつき、鼻血を拭く。男はまだ状況を判断出来なかった。

「ひったくりは犯罪…だろ」

パシッとハンドバッグをつかみとり、男の前に立ちはだかった。

「誰だよ一体!?ぶっ殺すぞ!?」

男は立ち上がり、ポケットからナイフを取り出した。

「死ねぇ!!」

男は叫ぶとハンドバッグを持った人物にナイフを振りかざした。
「オレ、ナイフ嫌いなんだ。危ないから」

男の攻撃をヒラリ、とかわし、男のうなじを強く叩きつけた。

「がっはっ…!!」

男は再度、アスファルトに倒れた。

「やれやれ…、ナイフは預かっておくよ」

気絶した男の手からナイフを抜き取り、制服のポケットに滑り込ませた。
と、そこへ被害者の女性がバタバタと走ってきた。

「ああっ!わたくしのカバン!!あなたが捕まえてくれたのね。…!」

ハンドバッグを手渡した少年を目にした中年の女性の顔が、恐怖の色に変わった。

「あなた…、その顔の傷痕、どうしたの?」

少年の顔に出来た、大きな傷痕を見て、女性は聞いた。
少年はふっと微笑むと、女性に背を向け歩き出した。

「あっ、ちょっとあなた!警察もう少しで到着するわよ!」

「いや、いいですよ。オレは、警察の厄介者ですから」

少年、月岡洋は、振り返り困った顔でそう答えた。



その男
[*prev] | [next#]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -