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−−…。

「じゃ、シンデレラ、しっかり留守番してなさいよね。家事サボってたりしたら承知しないから。」
「お気をつけて行ってらっしゃいませ。王子様が“ロリコン”だといいですね。」
「うっさい!! 灰に埋もれて死ねッ!!」


こうしてシンデレラを残し、継母と義姉の三人は馬車に乗って城へと向かった。


“まずはアンナ義母さんとリンカ義姉さんが脱ぎ散らかした服を洗濯して、家中くまなく掃除しないと…”


コン、コン、

「?」

散乱した衣類に手を伸ばした時、シンデレラは戸口をノックする音を耳にした。

“…あ、”

瞬時に思考を巡らせたたシンデレラは、急いで戸口に駆け寄りノブに手をかける。


…ガチャッ

「「ユナねぇ〜〜!!!」」
「!」


ドアを開けた途端、
2人の少年が、シンデレラの胸へと飛び込んできた。


「んだよ、やっぱ家に残ってたのか。」
「だから言ったろ? ユナは王子なんかキョーミねぇって。」

「ケイ、カイ。」

「…全く、先に行くなって言ったのに。」

入ってきて早々に、ギャアギャアと騒ぐ少年たち。続いて、少年より幾らか年長の少女が、まだ幼い子供を連れて入ってきた。

「アリサ、…アイカまで連れて来ちゃって…。」




彼らは、ここから三里程離れた村に住んでいる。それなりの距離ではあるが、高台にあるこの屋敷から見れば、最も近い。
幼少の頃よりシンデレラは、今は亡き父母に連れられ、よく市を見に行ったものである。

貴族にもかかわらず傲らない両親を、村人は優しく迎えてくれた。
村の子供たちはみんなシンデレラにとって兄弟同然。ここにいる彼らは、その中でも特に実の弟妹のように自分を慕ってくれた。


「またあの“ガキ”にイジワルされたんだろ。」
「お前は来るな、とか言われたんじゃねぇの?」

…ガキ、というのは、恐らく継母のことであろう。

「違う。私が自分の意志で残ったの。」

「えぇ〜、なんでだよ〜!」
「ユナ姉だったら、きっと王子様惚れるぜ?」
「「タマのコシ〜!!」」

「……。」

一体、こういう言葉はどこで覚えてくるのか。
そんな惚れっぽい王子だったら、町中の娘たちも、今日という機会にそこまで騒ぎ立てたりしないだろうに…。


「残念だけど…興味ないの。たとえ興味があったとしても、私にはドレスもないし…。
ほら、下らないこと言ってないで、もう暗いんだから早く帰りなさい。」


そう、億が一にも興味が出たとして、自分はドレスすら持っていない。
貴族の娘がと笑ってしまうが、そういう機会は全て避けて生きてきたのだ。


「「ニヒヒ〜。」」

「?」


ところが、それを聞いたケイとカイが、何ともいえない笑みを口元に浮かべた。

「そういうと思って〜、」
「アリサ姉!」

「はいはい。…んー、よっ、と。」


フワッ…





“…え?”





突如目の前に舞い上がった青のレース。

幾つかの布を組み合わせたと思われるソレは、一見歪にも見えるが、色が似ているためグラデーションとなって映し出される。フリルの少ない至ってシンプルなデザインは、人の好みにもよるだろうが、少なくともシンデレラの目には…


「……キレイ。」


美しく映ったのだ。


「「! ホントか!」」

無意識に呟いた彼女の言葉に、2人の表情がパァッと明るくなる。

「これ、みんなで作ったんだよ。」
「え、」

「本当は私が着て行って見ようかとも思ったんだけどさ、ほら、私まだ15になってないし…」





『純白とかなら尚よかったんだけどねー。こんな貧乏くさいドレスじゃアレだけど、よかったら行ってきなよ。たまには、ユナ姉だって…』


「……。」


残されたドレスを手に、シンデレラはそっと指を滑らせる。


“どうしよう…”

確かに、今なお全く興味がないかと問われれば、そうでもない。みんなが作ってくれたドレスを見たことで、少なからず気持ちが揺らいだのは事実だ。

「似合うわけないのに…」

鏡の前で体にドレスを当ててみても、それは自分と酷く不釣り合いのように感じる。


「……。」




…コン、コン

「!」


本当に、不意だった。
予想しなかったタイミングのノックに、シンデレラはハッとして我に返る。


コン、コン。


“…? あのコたちじゃ、ない?”

突然の来訪者に、当然つい先程出て行った少年たちの顔が浮かぶ。しかし、ノックの音からなんとなくではあるが、そうでない気がした。
どこか控え目で…丁寧な叩き方…。


「…どちら様ですか?」

とりあえず襟を正し、ドレスを手早くクローゼットへとしまう。

『お開けしてもよろしいでしょうか?』
「…構いませんが、きちんと名乗って頂けますか?」


ドアごしに聞こえた声は、若い男性のものだった。

鍵はかけていない。警戒を強め、ドアとの十分な距離を保ちながら、シンデレラはその来訪者が入ってくれるのを待った。




「……。」


「そんなに警戒しないで下さい。」
「!!」


ドアは開いていない。
声がしたのは、自分の背後からだった。





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