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君を押しのけ、飛び込んだ。
「し…!?」
瞬間、オレにぶち当たってくる衝撃。
どこかで嗅いだ、むせかえるような鉄の匂いと、
目の前に広がる、赤。
赤。
「……………ハハ」
なんて顔してるのさ、蘭ちゃん。
彼女の瞳に、オレの姿が淡くちらつく。きっと、酷く無様に映ってるんだろうな。
大丈夫だよ。
あんなにも繰り返した“今日”は、きっともうこない。
三文小説のネタにもならない、そんな夏のよくある話だったんだ。
蘭ちゃんの向こうでゆらりと揺れる“アイツ”が、今日はなんだか、ひどく不満そうに見えた。
そう、今度はオレが笑う番。
誰にも聞こえやしなかった。声にならない最後の呟き。
少年はただ虚空を見つめ、小さく唇を動かした。
『ざまあみろ』
−−−−−
8月15日
アスファルトに陽炎立つ、それは暑い夏のこと。
何かを追うように道路へ歩き出す猫を、少女は独り、その懐に抱え上げた。
「また、ダメだったよ、チビ。」
小さな死体に顔をうずめた少女の呟きは、きっと誰の耳にも届かない。
そしてまた、よくある夏の、一日が始まる。
『Empty Days』・完
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