僕は媒体だ。

 
情報とか知識とか、それそのものにはそれほど興味があるわけじゃない。

ただ伝えたい。

自分が知り得た情報を、多くの人に広めたい。知らせたい。
だから僕は、

君という情報を伝播する、『媒体』であればいい。

 

 

媒体領域

 

 

「ねえ見てよムサ、今月の学校新聞のこことこれと…あ、その記事も。全部伊織先輩が企画して組んだ特集なんだけどさぁ、こんな一見ありふれた話題でここまで話膨らませられるのって凄くない?たった一月で三つも記事掛けもってどれ一つ手抜いてる様子も見られないんだよ?」
「サカナちゃん、それと同じような話を、僕は先月も先々月も聞いてるし聞かれてる気がするんだけど、それに対して今日も僕は『凄いね』と相槌を打てばいいのかな。」

放送部の一角、放送準備室で、いつものカメラや手帳に代わり紙面を突き出してくる親友に、武蔵は半ば呆れ気味にそう言った。

「ねえサカナちゃん、君の柏倉先輩に対する崇敬ぶりは知ってるつもりだけど、たまには自分が頑張って書いた記事を自慢しにきたりしてくれないの?」
「ボクの記事にそんな魅力はないよ。謙遜でも遠慮でもなく、自他共に評価は公平にしてるつもりだからね。
…それで?今週の『突撃』は一体誰にしようか?」

見せびらかしてきた新聞を大切そうにしまいながら、メバルは漸く本題に入る。
ここに来たのは、自分たちの企画する放送部と新聞部のコラボ番組『突撃!あなたに質問!』の打ち合わせのためだった。

「……。」
「? ムサ?」
「…柏倉先輩。」
「え、」

武蔵の口元にふっと笑みが浮かぶ。そして、胸ポケットから愛用のマイク型ペンを取り出し、回っていないカメラに向かい突き出すと、意気揚々と声高に、演説口調で言い募った。

「サカナちゃんが尊敬してやまない奏梗学園データバンク歩く図書館柏倉伊織!今回の『突撃!あなたに質問!』は、彼の隠された情報網と日常生活に迫ります!!」

 

 

 

「ムサ、やっぱり伊織先輩はやめた方がいい。」
「? なぜ?」
「なんでも。」
「…でも、サカナちゃんだって知りたいでしょ?自分の尊敬する人のことは、今よりもっと。」
「そりゃあ…」

勿論。
自分たちの企画で公式に彼を取材できるなら、これ以上のことはない。今までのどのターゲットより、気分が高揚したっておかしくない。
それなのに、メバルはどうしても伊織をターゲットとすることに気乗り出来ずにいた。

「ところでさ、何で新聞部の部室が茶室なの?」
「先輩は元々茶道部も掛け持ちしてて、でも殆ど幽霊部員ばかりだから、新聞部の活動場所をそっちに移して使ってるんだ。」
「へー。」

既に手元のボイスレコーダーをONにして、武蔵は嬉々といくつかの質問をメバルにぶつけてくる。

 

−−先行き不安だ…。

 

 

 

「取材?別に構わないよ。」
「!」
「ありがとうございます。あ、これつまらないものですが。」

 

…驚いた。
喜んで菓子折りを受け取る伊織を見て。無意識に、ポカンとした顔をしてしまったと思う。

 

「メバル君。」
「取材、…しないのかい?」
「あ、…よろしくお願いします!」

 

 

伊織が自分を詮索されることを嫌うのを、メバルは知っていた。
最初こそそんなことを気にもとめず、本人にも他人にも無神経に聞き込みまくって、憧れの先輩の情報を集めていたものだけど。
てっきりもっと渋るかと思っていた。こんなにもあっさり、公式な取材を受けてくれるなんて、…驚いたし、ちょっとショックでもあった。

…でも、

「それではまず、一つお聞きしたいんですが。」

またとないチャンスだ。

 

「…なぜ新聞部と茶道部のかけもちを?」
「いつから情報収集等に興味を…」
「それだけの知識や情報は一体どこから…」
「人から得た情報の信憑性は…」

 

・・・・・。

「…と、もうこんな時間か。」
「あ、はい。」

楽しい時間はあっという間だ。
時計を見ながらやっていたけど、気づけばもう一時間は経過していた。

「僕もそろそろ帰りたいし、取材はこの辺で。いいかな?」
「はい。今日はどうもありが…」
「ちょっと待ってください。」
 

−−?
もう終わり、というところで、待ったをかけたのは武蔵だった。

「最後に一つ、お願いがあるんですが。」
「…? 何かな?」

「そのパソコン。」

“!”

「先輩がいつも持ってるそのパソコン。先輩が集めた情報の宝庫だそうじゃないですか。」
「……。」
「良かったら、後学のためにちょっと拝見しても…」
「駄目。」

 
ピシャリ。
笑顔で、たった一言。
それだけ言うと、伊織はさっさとパソコン含む自分の荷物をまとめ、茶室をあとにした。

「あ、メバル君、戸締まりよろしくね。」

「………」
「はぁ、やっぱりダメか。ひょっとしたらって思ったんだけどなぁ。残念だったね、サカナちゃん。」
「…ム〜サ〜?」

何考えてんの寿命が縮んだよ
見せてくれるわけないじゃん
普通の人だって自分のパソコン見せるの抵抗あるって
先輩のパソコンなんて
とんでもない。

 

一気にまくし立てると、取材の緊張もあってか、ドッと疲れが湧き上がる。
しかし武蔵はまるで悪びれる様子もなく、ケロッとした顔でこう続けた。

「でも、サカナちゃんだって見たくない?あの中身…。」

それは多分、悪魔の囁き。

「ここからが僕らの、本領発揮でしょ?」

 

 

 

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