−−…。
「あ゛〜、…タバコ吸いてぇ〜…。」
奏梗学園職員室。
各教室で授業が行われている今は、殆どの教師が出払っていて、室内には数名しか残っていない。
その中で、
「うぅ〜……あ゛ぁぁぁ〜〜…」
小さく声を発しながら、机の上で突っ伏し悶える一人の教師の姿があった。
「ニコチンが足んないんだけどおぉ〜〜〜〜〜!!」
………。
凡そ教師とは思えぬその叫び、姿勢に、その場の教師たちは慣れているのか、誰一人として見向きもしない。
…と、思いきや。
「もう! 何言ってるんですか!?」
職員室の一角から、そちらに向け高い声が上がった。
「あれ〜? ヒナちゃんじゃないの〜。…いたんだ?」
「『いたんだ?』じゃないですよ! そんなこと大声で言って、先生として恥ずかしくないんですか!?」
「……ヒナちゃんの声のがデカいんですけど。」
ツカツカと自分の方へ歩み寄り、声を荒げる『南海雛子』に、その教師『木戸光章』は耳を手で塞ぐように覆う。
うるさいのが来た、と言わんばかりのその態度に、南海は小さく息を吐いた。
「教師がニコチン足りないとか言ってたらマズいでしょう。どこで生徒に聞かれてるとも知れないのに…。そんなんじゃ、また九条君に注意されちゃいますよ?」
呆れ顔で言葉を続ける南海。
すると、その言葉で木戸が何かを思い出したらしく、小さく舌打ちをした。
「そう…そうなんだよ! …あの色ガキ、人の命の源全部持って行きやがってさぁ〜…。」
「い、色ガキ?」
パカパカとタバコの箱を開け閉めしながら、彼はブツブツと愚痴を零す。見れば、そこに入っている筈のタバコは一本もなく、ヘビースモーカーである木戸にしては珍しい、“空箱”である。
「あれ? でも木戸先生、いつも3、4箱は持ち歩いてませんでしたっけ?」
「ハァ〜、…だ〜・か〜・ら〜…!」
突然、木戸が立ち上がり、クルリと身を翻す。
「!」
不意に顔が急接近し、あっという間もなく強く肩を掴まれた。
「ッ!? き、木戸、先、せい?」
「…………全部、」
「…え?」
「全部取られちゃったんだってばあぁぁ〜〜〜!!!」
木戸の涙声が、職員室中に響く。
南海が驚きと困惑に目を丸くする中で、木戸はつい数時間前のことを思い出していた…。
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