パチン、
…パチン

「ねぇ零夜。」
「なんです?」
「いつまでふてくされてる気だい?」

パチ…。

昼休み。
騒がしい教室から逃げるように、零夜はここ(茶道室)へ来た。
盤上を叩くように指される駒の音は、静かな室内でもよく響き、耳に心地いい。

「…別にふてくされてなどいませんよ。」
「なら、いい加減挨拶くらい返してあげればいいじゃない。」
「……。」

見ててちょっと哀れだよ? 彼。
と、クスクス笑いながら言う伊織は、本当に哀れんでいるのか定かではない。

「…正直、もうそこまで怒っているわけでもないんですが。」
「許すタイミングが、分からなくなった?」
“う…”
「もう何年君と一緒にいると思ってるの。」

そう言われてしまっては黙るしかない。
何となくバツが悪くなり、零夜は盤へと視線を落とす事で俯くのを誤魔化し、角を敵陣側へと動かす。
そして、その辺りで黙っていればよいものを、伊織は尚も口を開いた。

「彼なりの気遣いだったんだろうね。君の味方しかいないあの場で、君を負かすというのはどちらにとっても非常に体裁が悪い。ギャラリーというものは、時に当事者側に多大な影響を及ぼすからね。」
「そんなこと、」
「うん、零夜だってそれは解ってよね。…しかし、それでも君は
“そんなもの”より、自分との勝負へ誠意を示して欲しかった。」
「…。」
「だろ?」

目を細め、ニッコリとその顔に笑みが浮かぶ。と、瞬間それを叩くかのような
パチッ!
と乾いた音が、静まった室内に大きく響き渡った。

「王手。」
「あれ?」
「おしゃべりが過ぎますよ、伊織くん。」

完全な詰みとは云えないまでも、勝敗は大方ハッキリしていた。
取った駒を手の平で転がしながら、零夜は実にふてぶてしく笑っている。どうやら本当にご機嫌を損ねてしまったらしかった。

 

「今回は柏庵の抹茶カステラでお願いします。」
「はいはい。あー、85勝67敗かぁ。また少し追いつかれちゃったな。…全く、零夜はお菓子や茶葉を賭けると途端本気になるんだから。」
「ふふっ、実力ですよ♪」

 

了。


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