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「神崎!」
「……。」

階段の踊場まで来た時、柚那は、頭上から降ってきた声に頭を上げた。

お「何で帰ろうとしてるんだ。今日は定例会があるからと言って」
「会長に許可は取りました。」
「…は?」

「所用があるので、今日はこれで失礼します。」
「え…あ、おい、神崎!」

それだけ言って身を翻し、要が呼び止めた時には既に、柚那は階下へと消えていった。


Yt『サンドリヨン』





「会長、神崎にホイホイ休みあげないでください。」
「そうは云われても。」
「今月に入って何回休んだと思ってるんですか。仕事はちゃんとしてくれるから今までは目を瞑ってましたが、こう何度も休まれたら…」
「要くん、寂しいんですか〜?」
「違います! 定例会で書記が欠席なんて、どう考えたっておかしいでしょう。そもそも所用って何ですか。そんな抽象的な理由で休ませないでくださいと言っているんです。」

耳を塞ぐ零夜にも聞こえるように、一言一句力を込める。

「そうカリカリすんなって〜。私らが来なくたってそんな怒んないじゃん?」
「お前たちは執行部で、通常の業務に携わってないからな。部活に励むことが仕事だ。」
「柚那の変わりに呼びつけといてそれはないでしょ。あ〜ぁ、せっかく柚那のバイト先でも、教えてあげようかと思ったんだけどな?」


棒つきの飴をカリカリとかじりながらニヤリとして言った虹の言葉に、要の目が大きく見開く。

「…バイト?」
「あ、やっぱ知らなかった? 割といろんなとこで見かけるけど。」
「バイトで生徒会休んでるのか、神崎は。」


「……要くん?」

ピリピリと発せられる空気に、零夜が要の顔を覗き込む。

「会長も知ってたんですか?」
「え、えぇ…まぁ…」

怒ってる。その矛先が、バイトを理由に休む柚那と、そんな理由で休みを与える自分、一体どちらに向いているのか。
障らぬ神に祟りなし、とはよく言ったものだ。

「あの、要くん? 柚那さんにも色々と事情が」
「あ゛ぁ…また仕事が滞る…」

ビクッ!


「か、要く…」
「さて、それじゃあ週一定例会を始めましょうか。今回の議題は…」

“え、えぇーー…”


要くん怖い。初めてそう感じた1日だったと、後の零夜は語る。









−−…。

「ただい、ま?」

家に入ると、なんともいえない焦げ臭さが鼻をついた。

まさか、

「姉さん、何して…」
「あ、か、要? いや、違うのよこれは。ちょーっと目を離した隙になんだか黒い煙が上がっちゃって…」

「……。」

台所に駆け込んですぐ、その有り様に絶句した。
弁解はいいから包丁持ってこっちへ来るな。フライパンが壊れてたのかなぁ、と苦笑する姉に、フライパンは機械じゃないぞと叫びたくなる衝動にかられる。たとえ壊れていようが黒い煙が上がる訳がない。単に自分が焦がしただけだろう。…あと、そのまな板の上にあるゴチャゴチャとした物体は何だ。

「ハァ〜〜…」

頭が痛い。

「姉さん。料理するなら、せめて俺がいる時にしてくれない? 火事にでもなったら事だし。」
「ごめん、なさい。」

シュン、と肩を落とす姉を横目に見やりながら、制服の上からエプロンを纏う。背で紐を結びながら流しに行くと、まな板の上にある物体がようやくハッキリする。

“じゃがいも、人参、白滝…?”

加えて三角コーナーを覗くと、何やら剥かれすぎて小さくなった玉ねぎが捨てられていた。

「え、とね? 肉じゃが…作ろうと、思ったんだけど…」
「全部の材料をみじん切りにしてしまったと。玉ねぎに至っては身まで剥いて。」
「ぅ、だ、だって、どこまで皮なのか分からなかったんだもん。」

カボチャの煮付けが真っ黒だ…。しかもこっちはでか過ぎる。

「…これ片付けたら、俺は買い出し行ってくるから。姉さんは台所に“近づかないで”、おとなしくしてて。」
「こ、子供扱いしな」
「いいね?」




「………はい。」



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