1ページ/8ページ
生徒会室の昼下がり…。
今日は職員会議があるらしく、学校全体が早く終わった。
しかしこんな日でも、生徒会の仕事は山積みなのである。
その原因が…
Wt『Former』
「要く〜ん、そろそろ休憩しましょうよ〜。」
「……。」
これだ。
「…会長、前の休憩をしてどれくらい経ったかお分かりですか?」
「えっと、一時間くらいですか?」
「ッ…30分です! さん・じゅっ・ぷん!! その前は20分、最初なんて始めて10分でしたよ。この一時間の間に三回も休憩してるんですからね!」
3本の指を前に突き出し、俺はすぐさま取りかかっていた書類へと視線を落とした。
「え〜、徐々に間隔長くなってるじゃないですか。…次は一時間頑張りますから。ね? 休憩しましょ♪」
「………。」
ハァ〜、と、嫌でも深いため息が口をついて出る。
呆れてものも言えない。一体どれだけ事務作業が嫌いなのか。ならば早く終わらせればいいのに。
「会長が真面目に動いてくれればこんな書類、すぐに終わるでしょうに…。」
「人を不真面目みたいに言わないで下さいよ。」
…いつの間にか思っていたことが声に出ていたらしい。慌てて口を噤む。
俺はカップに紅茶を注ぐ会長を横目に見つつ、せめて自分だけでもと、書類に通していた目を進めた。
横にいる神崎も、仕事の手を止めないでいてくれる。枢木と成宮は部活が終わってから来るから、後は……、
「おい李、起きろ…。……李!」
「…〜〜っ………多嘴多舌、」
「…は?」
な、何だって?
「『静かにしてほしい』そうですよ、要くん。」
「な!? に、日本語で言え、日本語で! それに、堂々と業務中に惰眠を貪っておいて、静かにしろとは何だ!」
怒鳴っても尚、安らかな寝息をたてる李の首根っこを掴んで引き上げる。どうやらさっきのは寝言だったようだ。
漸く目を瞬かせ、くぁ〜ッと欠伸をかみ殺す李を見ると、さながら小動物でも虐めているかのような気分である。
「…起きたか? まず、目やにを拭け。それからコーヒー淹れてやるから、飲んだらさっさと仕事に戻れ。」
まだ完全には目覚めていない様子の李の目をハンカチで拭きながら、そういえばこいつはコーヒーが飲めなかったことに気づく。
仕方がない、…カフェオレなら、こいつでも飲める筈だ。
「ふふっ、要くんお母さんみた「下らないこと言ってないで、会長も早く手を動かして下さい。」
「……はい。」
クスクスと笑いながら未だ紅茶を飲んでいた会長を一瞥し、早速給湯室へ向かおうと踵を返す。
しかし……
「おい、お前九条にどういう口の聞き方をしてるんだ。」
「………。」
出た。
最近増えた悩みの種3。
「自分の会長に対して、随分過ぎた発言じゃないか?」
「……自分とこの会長が怪我しても、一歩も動かず他校の会長に見惚れていた人間には言われたくないな。」
「……。」
「………。」
こいつは最近律桜から奏梗の方へ来た転校生、『如月斑葉』だ。
なぜかは知らないが、毎回こうやって些細なことで俺に絡んでくる。いつも睨みつけるようにこちらを見るものだから、俺も自然と態度がきつくなってしまう。
「“斑葉くん”、邪魔するおつもりなら、今すぐさっさと迅速に出て行って頂けませんか?」
どうやらそれは会長も同じようで、誰に対しても温厚な会長が、この男にだけは平気で(っていうかむしろ笑顔で)辛辣な言葉を投げかける。
因みに、如月への呼び方が変わったのは、なんでもそうしないと、言うことを聞いてくれないかららしい。
「つれないこと言うな。俺は、一分一秒だって九条と一緒にいたい。」
俺から離れた如月が会長の方へと歩み寄り、その椅子に手をかけ、顔を近づける。
「…なんなら、そこの短気の代わりに、俺が新しい副会長に…ガッ!!」
「笑えない冗談はやめて下さい。要くんの代わりなんて、いるわけないでしょう。」
如月の誘いを一蹴、…文字通り、向こう脛を蹴ってあしらった会長は、痛みにもがく彼の衣服をむんずと掴み、素早く表に出すと、鍵を閉めた。
…驚く程の手際の良さだ。
「九条? あ、鍵…、九条! もう邪魔しないから、くじょ〜!!」
「貴方、バスケ部に入ったんでしょう? だったら、こんなところでうだうだと暇を持て余してるより、部活に行って真面目に練習してきなさい。」
侮蔑の眼差しをドアの外へ向け、会長は漸く溜め息を吐きながら戻ってきた。
back