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奏梗学園部室棟 −茶道部(兼、新聞部)

 
「それでしょう、まだ墨が落ちきってないのか、今日帽子かぶってきたんですよ。」
「アハハハ、…いやー見たかったなあ、成宮君の黒髪。」

ククッと喉奥で笑いをかみ殺しながら、伊織は手元の急須を、零夜の湯呑みへ傾ける。

「橘君はいい性格してるよねー。実直で、クールなようで熱くて、破天荒で…

ねえ、冬季君?」

天を仰ぎ、伊織はニッコリとその目を細めた。
まるで、天井にでも話しかけるように。

『……』
「あ、冬季くん、いらっしゃったんですか? すみません、気付かずに。」
『………いえ』

天井裏から、小さいながらも声が返ってきた。
が、そこからは変わらず、凡そ“気配”というものが感じられない。

「彼はそれが仕事みたいなものだから。ねえ冬季君、私には応えてくれないのかい?」
『…何故、拙者に奴のことを?』
「だって、仲いいじゃない。橘君と。」

カタッ…
小さな物音。同時に、僅かでも浮き彫りになる、人の気配。

『否』

先程と変わり、はっきりした声が、そこから聞こえた。
見れば、伊織が口元に手を当てクスクスと笑っていた。零夜も静かに肩を震わせ、笑うのを堪えている。

「さて、戯れはこの辺にして、…今日も“仕事”に励んで欲しいな。」

『………御意』

フッ、と微かに残っていた気配が消えた。
再び気配を消したわけではない。本当に、その場から消えたのだ。

途端、二人顔を見合わせ、小さく声をたてて笑い始める。

とある平日。
休み時間の昼下がり。

 
to be continued
 


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