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「何だね急に。」

首だけをだらんとこちらに振り向かせ、虹はきょとんとした顔で俺を見た。
まあ、いきなり思考から会話にシフトしたら、そりゃ言われたヤツはワケわかんねーよな。

「いいから教えろよ。オマエ、私に部長なんて無理〜、ってキャラじゃねーだろ? 前なんか生徒会室にまで部活のヤツら来てさ、あんだけ支持されて、なんで部長になんなかったんだよ。」
「うーん、そんなようなこと、前に会長にも聞かれたよーな…」

それは会長が、お前が生徒会に変な気でも回したんじゃねーかと心配で…。
確かに会長がそれを虹に聞いた時、オレもそこにいた。だから、こんな質問しても、また同じ答えが返ってくるだけかもしんねーけど。

けど、

『執行部の仕事もあるし…』

…何だよそれ。そんなん理由にすんなよ。
まるで執行部が重荷になってるみてーな言い方…。会長だって、それを気にしてんだぞ?

見ると、虹は何やら腕を組み、考えるように眉を寄せ、目を瞑っていた。
何だ? 前とは違う理由でも出てくんのか? …それともハナから大した理由なんて、存在しなかったのか。

やがて、しばらくの間止まっていた足がゆっくり動き出し、虹は再び縁石の上を歩き始めた。

「私さ、マンガとかアニメがすっげー好きなんだよね。」
「え?」

?? 何の話だ。

「漫研にもちゃっかり所属してたりするし、オタ友とオタ話に花咲かせて、もうそれが超楽しくて、…でもたまには、クラスの友達とバスケやったりゲーセン行ったりカラオケ行ったり…」

こいつ、
体力底無しかよ…

「そんで、生徒会が…っていうか生徒会のみんなと、お茶飲んでお菓子食ってくっちゃべって、たまーにだけど仕事も手伝って、…そういうのがたまらなく好きなわけよ。」

にへー、と擬音がつきそうな笑みが、不意に向けられる。わけがわからずしかめていた顔は、いつの間にかすっかり解けていた。

「とにかくもう私ってさ、やりたいこととか好きなことがいっぱいあんのよ。」
「…だから、部長の話蹴ったと?」
「そ。だって今以上に時間けずられんじゃん? 色々めんどーそーだしさ。」

「……。」

…とに、こいつは…

どんだけ自由なんだよ。

 

そんなんで先輩後輩の期待裏切りやがって。
なのに、それでも反感買ったり、陰口の一つすら聞かないってのは…
それは多分、こいつだからなんだろうな−−。

 

「だから少年よ。」
「あ?」
「貴君も、自分がしたいよーにやりたまえよ。」
「え、」

にへー、
と、また気色の悪い笑みを見せ、虹は「うちまで競走!」とどこぞの有名アニメで聞いたようなセリフを叫び、突然ダッシュで走り出す。

「なっ、ズリーぞテメー!」

 

自由って、実はすげー怖いことなんじゃないかと、ふと思った。
だって、誰のせいにも出来ねーじゃん。何かあっても、それは自分が決めたことだからって、言い訳すら許されず、あとはもう、割り切るしかなくて…

なんて、そんなことを考えたりもしたけど、
なんかもう色んなゴチャゴチャは、走ってるうちに全部とんでしまった。

…つうか、

「うちってどっちのだよ!」

互いの家距離3kmは、地味に遠かった。

 

 



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