7ページ/7ページ




 
一際盛り上がっていた虹も帰ることとなり、結局勉強会はそこでお開きになった。

「九条、俺はまだ一緒に遊」
「はいはい、また皆さんで来てくださいねー。」

揃って階段を降りてゆくと、部屋からでは気にならなかった外の暗さが、奥の窓に映る景色から明らかになる。
まだ時期的にこの時間はそこまで暗くならないが、陽は確実に傾いているのだ。

「それじゃあテストが終わったら…」
「あれ、ねえ会長。あそこ、お客さんじゃない?」
「え?」

言われて見ると、踊り場から望める玄関に、2つの人影と、先刻会った相澤の姿が。
どうやら客人は男と女らしい。とりわけ女の方は、一際目を惹く存在だった。
膝裏まで伸ばした艶やかな黒髪を靡かせ、こちらに気づいてか女は僅かに顔を上げる。
成る程露わになった顔立ちも、目を瞠る程に美しかったが…。

「…げ。」
「? かいちょ」
「! あーん、零夜ぁー。」

!?

「ちょっ…うわ!?」
「ねえ、まだ兄さん帰ってないの? 折角来たのにー。」

黒髪の美女は零夜を見つけるや、まっしぐらに駆け寄って来たかと思うと、あろうことか自分の胸へ、思いきり彼を抱き寄せた。

「な…、おいお前、九条に何を!」
「お・ま・え〜?」
「…っ、」

咄嗟に斑葉が手をかけた途端、鋭く女に睨まれ、威圧。思わずたじろぐ。
と、そこで虹が小さく挙手し、怖ず怖ずと女に声をかけた。

「あ、あの〜、あなたは一体誰ですか?」
「私?」

こくこくと頷く。

「そうねぇ、零夜の
…恋人。」
「!」

まさか。

「…って言ったらどうする?」
「へ?」
「奏さん!」「奏様!」

重なる声。見れば、彼女の胸元から必死で身を離した零夜と、先程彼女の傍に立っていたこれまた執事風の男が声を上げ、こちらへ駆け寄ってくる。

「何やってるんですか。また零夜様つかまえて。」
「ちょっと雪? 人聞き悪い言い方しないでもらえる? 私はただ可愛い甥っ子に」
「セクハラですか?」
「……雪、あんた」
「零夜様、ご友人を連れて早くお逃げになった方がよろしいですよ。奏様はこちらでおさえておきますから。」

二人の間に入り、慣れた様子で美女から零夜を剥がすと、キイキイとわめき出す主(?)をよそに、執事はため息混じりでそう告げる。

「あ、いつもすみません雪さん。ありがとうございます。」

いつもなのか。
何はともあれ、事態は収束したらしい。まだ何が何だか分からなかったが、自分の身なりを整えながら「行きましょう」とその場を去ろうとする零夜に従い、彼に続いた。

 

「ねえ会長、あの人会長のことオイって言ってたけど、つまりオバさんてことだよね? 若くね? 美人じゃね?」
「…はは」
「でもオレどっかであの人見たことあるような気がすんだよなー。」
「あ、それ私も。」
「それはそうだろう。自分たちの学園の理事長だぞ。」
「あー、そっか、どうりで」

・・・・・。

「「え?」」
「おい、何だその初めて知りましたみたいな顔は。」

初めて知りました。
というか初耳です。
苛立ちを含み始める視線から逃れ、バッと二人で零夜の方へ向く。だって甥って、甥って…ことは…

「知らなくても無理はありませんよ。あまり式典などの類には出席したがらない人ですから。」

マジだ。

「そのくせ暇さえあれば校舎をぶらぶらと徘徊してますからね、それで見かけたんでしょう。」
「じ、自由な人っすね。」

自分たちの学園の理事長がそんな人だったとは。
正直、あまり知りたくなかった。

 

 

「それじゃあ、僕は紗嗚を家まで送ってくるので。要くん、柚那さんをしっかり家まで送ってあげてくださいね。」
「…分かってますよ。」

上り(駅)組と下り組に別れ、それぞれ九条邸を離れてゆく。本来見送る立場にある零夜も紗嗚について門を出たが。

「? あれ、斑葉くん。」
「俺は畑中が来るまでここで待たせてもらう。」
「え…あ、それなら中で。」
「いや、ここでいい。すぐ来るから大丈夫だ。また明日な、九条。」
「えーと、…じゃあ、すいません。また明日。」

本当は客人をひとり残してゆくようなことはしたくなかったが。笑顔でひらひらとこちらに手を振り見送る彼に、謝罪混じりの会釈をし、後ろ髪を引かれつつ零夜も自宅をあとにした。

 

 

−−残された斑葉の視界から、零夜たちの背が徐々に小さくなり、やがて消えてゆく。
すると、入れ違いのように車が一台、九条邸の門扉をくぐり、かと思えばその手前、斑葉の目前で、ピタリと止まった。…畑中では、ない。
すると、後部座席の窓が静かに開き、中から先程別れたばかりのものとよく似た顔が、ひょっこり顔を出す。

「あれ? 零夜のお友達くん。こんなとこでどーしたの?」
「迎えを待っているところで。…お仕事、お疲れ様です。」
「ありがと。でもそれなら中に入ればいいのに。零夜は?」
「御子息なら、ご友人達を送りに…。差し支えなければ、俺はここで待たせて頂きます。それ程時間はとりませんので。」
「……。」
「? 何か?」

九条(父)の視線は、いつの間にか自分へと注がれていた。
それも、ただ息子の友人を見るふうではなく、ジッ…と、興味の対象を前に、どこか探るような目で。
やがて、その口元がふっと綻びを見せる。

「いや。相変わらず、クールな子だなぁと思って。」

ピクッ…斑葉の眉が僅かに反応を示した。

「零夜から君の話を聞いて驚いたよ。まさか本当に君だったなんて。」
「……。」

徐々に近づいてくるエンジン音が、斑葉の横、彼の車の後部に、ゆっくりと停車した。
お迎えである。

「君には個人的にもとても興味があるからね。仕事のことも含めて、零夜のこととか、今度ゆっくりお話したいな。」
「…失礼します。」
「あ、そうそう。」

再びかけられた声に、車にかけた手がふっと止まった。

「龍流にも、よろしくね。」
「……。」

ドアが閉まり、車は静かに夜道を走る。
同時に自分の車もゆっくりと動き出すのを感じながら、九条は伸びゆく車の影を、そっと見送る。

その口元から、楽しげな鼻歌を奏でながら。

 

 
to be continued

 


[*prev] | [next#]





back
top


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -