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息も絶え絶えに、突如扉を破るようにして入ってきた男。
突然の来訪者を前に皆が呆気にとられていると、そんなことなど気にとめる様子もなく、室内を見渡した彼の顔が、瞬間パアッと輝く。

“あれ、この顔…”

「どうも初めまして。“うちの子”がいつもお世話になってます。」
「え?」
「父です♪」

…−−
 

「いやー、零くんがいつも話してる生徒会のみんなに会えるなんて、今日はツいてるなぁ。」
「お父さん。」
「あ、零くんただいま。びっくりしたよ。近くで仕事があったからアリアの顔見に帰ったら、零くんがもう帰ってるって言うんだもの。しかも友達連れで。」
「…。」
「伊織くんじゃないって言うしさぁ、あ、これはもう生徒会諸君だ、って思って。ね、ね、一人ひとり紹介してよ。」

 
彼が身を揺らす度、彼の肩から流れた黒髪も共にふわりと揺れる。
零夜の父と名乗った男は実際のところ、その息子とよく似た容姿をしていた。髪の長さも顔立ちも、髪と目の色を変えれば見分けなどつかないのでは、とさえちらと思った程だ。
ともあれ二人のやり取りを見れば、親子故の温度差はあるものの、さながらそれは兄弟のようでもあり。

「もー、みんなで勉強してるんですから、邪魔しないでください!」
「えー、待ってよ。ちょっと紹介してくれるだけでいいからさぁ。」

背中を押され、追い出されつつある父に引き下がる気は見えない。しかし、

「そこまでです。」
「あれ、霧雨。」
「旦那様。そろそろお時間の方が。」
「えー、もうそんな時間?」

零夜父の背後から、彼の執事と思しき男が音もなく現れた。
執事から時間を指摘され、父は露骨に頬を膨らませる。なんだか子供みたいな人だな、と、その場にいた何人かが思ってしまったのも無理はない。
懐中時計のパン、と閉じる音を合図に、心底ガッカリした様子で部屋を去る父。
だが、一歩部屋を出たところでハッとしたように再びこちらを振り返る。
今度は何事かと思っていると、父は徐に深々と頭を下げ、

「今後とも、零夜をよろしくお願いします。」

 

そう言って、本当に嬉しそうに微笑む彼は、
子供っぽいと思ったことすら忘れてしまう程、子を持つ父の顔をしていた。

 

 
−−…。

「帰ります。」

唐突にそう言った柚那が立ち上がったのは、部屋の時計が6時丁度を示した時だった。
いつもなら生徒会業務も終わる時間である。

「もうこんな時間か。」
「うえー、頭パンクしそう…。」
「結構進めましたね。この辺でお開きにします?」
「え、まだいいじゃん。勉強終わったんならさ、ちょっと遊んでこーよ。」

ちょっと気を抜けばこれだ。
テストを明日に控えた高校生の科白とは思えない。

「本気でこんな二年にはなりたくねーな。」
「いやいや、今日はもうあり得ないくらいいっぱい勉強したじゃん。ちょっとくらい息抜きしたってさあ…」

♪〜♪♪〜

「!」

が、その時、どこからともなくアップテンポなメロディが虹の言葉を遮り、室内を包み込んだ。
軽快なリズムに合わせ、少女のような歌声が歌詞を紡ぐ。

「あ」
…ピ。
「もしもしどったの?」

やはりお前か。

「いい年してアニメソングかよ。」
「アニソンじゃない、キャラソンだ。…え?違う違う。今友達の家で勉強してて。…いや、しょうんとこじゃないけど、何で?」

“枢木兄…!?”

「会長の家、…みんな一緒! 分かった帰る、今すぐ帰ります!」

ピ。

「はぁ〜、会長ごめん。」
「あ、はは…まあ、仕方ないですよ。」

 



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