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「時雨。」

皆を引き連れ自分の部屋へと向かう途中、零夜は自分の執事の元へと歩み寄り、そっと声をかけた。

「何かありましたか?」
「…何か、とは?」

いまいち要領を得ない質問に、守山は特別不思議そうな表情を見せるでもなく応じる。主の目線に合わせようと腰を屈めようとしたが、どうやら密かに会話を進めたいらしい零夜の態度にそれは憚られた。

「いえ、貴方が客人の迎えに出遅れるなんて、珍しかったものですから。」
「それは恐縮ですが…」

守山は一節間をおき、更に声を潜ませる。

「奏様からお電話が。」
「え…」
「後程、こちらへいらっしゃるかと。」

あちゃー、とは言わないまでも、そんな声が出そうな面持ちで零夜は頭を抱える。続いて後ろをついてくる彼らを一瞥。小さく溜め息を漏らした。

「なんで、よりにもよってこのタイミングで。」
「お引き取り願いますか?」
「…それが出来れば苦労はしないんですけどねー。」

そうして自分の部屋へ着くと、自宅なんだから着替えてきなよ、の虹の一言により、零夜は再び自室を退場。どちらが家主なんだか。部屋中を観察するように眺め回す、その態度には、およそ斟酌というものが感じられない。
会長様の自室は、やはり庭や門口同様、思っていたよりシンプルだった。学校の一教室程の広さに、シングルとは思えないサイズのベッドと、白を基調としたセンターテーブルに、それを囲むように並ぶコーナーソファ。クラシック調のデスクは、恐らく勉強机だろう。それだけでも同じ高校生の部屋と考えれば贅沢と云えるのかもしれないが、特に、金持ち特有の趣味がいいとはいえない調度品(あくまでイメージ)の類は見当たらない。壁には先程零夜が服を出していたクローゼットと、たくさんの本が並ぶ本棚。それとは反対側に、間をあけて並ぶ扉が二つ。そろそろと音を忍ばせ開けてみると、

トイレ(洗面所つき)とお風呂だった。

「お前ら…、ちょっとは遠慮とかしろ。」

ら?
見ると、いつの間にやら紗嗚は大きなベッドにダイブ、安らかな寝息を立てていた。
柚那はといえば、真剣な表情で隣の要に、「これ全部売ればいくらくらいになりますかね」などという質問を曰っている。
と、そこで控えめにドアがノックされ、

「お飲み物をお持ち致しました。」

零夜と共に部屋を出た執事が一足先に戻ってきた。
コーヒー、紅茶、カフェオレ、ホットミルク…予め零夜から聞いていたのだろうか。流麗な動作でそれを個々へと配ってゆく姿は、どうしても自然と目が追ってしまう。
うーん、イケメンは何をやっても様になる、そんなことを虹が思っていると、クスッと笑われてしまった。

「私の顔に何か?」
「いやー、イケメンは何をやっても様になるなと思いまして。」

おい。
だがそんな賛辞には馴れているのか、守山はさして驚く素振りもなく「ありがとうございます」と笑顔で応えた。…見慣れてくると胡散臭さすら感じさせる顔である。

「ねえ、時雨さん。」
「はい。」
「時雨さんて、どのくらいここで執事さんしてんの?」
「そうですね。正式に坊ちゃんの執事として頂いたのはつい五年前のことですが、…私の場合、両親がどちらも当家で働かせて頂いてるので、零夜様が幼少の頃から、遊び相手として仕えておりました。」
「へー、そんな前から。」

“ん? 待てよ、ちっちゃい頃の会長か、…アルバムとか、言えば見せてくれるかな? っていうかもらっちゃダメかな?”

「会長のちっちゃい頃ね〜。なんか想像つかねーなぁ。」
「左様ですか?」
「だって会長ってなんかすげぇ大人っぽいし、…あの人を子供みたいに叱りつけられるのなんて、七瀬先輩くらいのもんでしょ。」
「おい成宮、それは俺に対する嫌味か?」

確かにしょうが言わんとしてることは解らんでもない。一人の人間の有り様など、それこそ人によって見方も異なる。常人ならば怠惰と思える態度も、そこに実力が伴えば、余裕と捉えることも出来る。事実、あの学園の生徒たちは、今期の生徒会長に対し、どこか偶像視するようなきらいがあるのだ。

「会長に苦手なものなんて…あるんかねぇ?」

誰へ訊くでもなく何とはなしに虹がポツリと呟く。空になったカップへ紅茶を注いでいた守山の口角が、ふっと密かに上げられた気がした。


…ガチャリ。

「お待たせしました。」
「あ、会長! おかえり〜。」
「お菓子貰ってきたんで、みんなで食べましょう。」
「おほ、やったー! よーし、んじゃ会長も戻ってきたことだし、これ食べ終わったら会長のご案内で、いざ!お宅訪も」
「テスト勉強はどうした。」



「・・・う゛ー。」

 



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