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−−

「えっと、それじゃあ車を来させましょうか。」
「んー、確かに黒塗りの車(想像)は見たいけど、会長の家の場所も覚えたいから、今日は歩きがいいかな。」
「分かりました。」

すると零夜は徐に、そばにあった生徒会室備え付けの固定電話へと手を伸ばす。迷うことなく番号をプッシュすると、程なくして出たのであろう。すぐさま受話器に向かい話し出す。

「時雨、僕です。…いえ、今日の迎えはいりません。…は? 違いますよ。客人を連れて行きたいので、先に戻って用意しておいて頂けますか。…だから違いますって。…5人程になると思うんですが。…ええ、お願いします。」

カチャリと受話器が置かれる。小さく息を吐き、振り返ると、虹がまたも興奮した面持ちで目を輝かせていた。

「今の、執事!?」
“…あー、”
「わー、テンション上がるなぁ。そんじゃあ九条家へ、レッツゴーッ!!」

今日は疲れそうだ…。

 

 

 

 

 

−−…。

“なんだか意外だったな”

なりゆきで零夜の家に生徒会メンバーで行くことになり、押し切られる形で要も渋々ついてきた。そんな要の脳裏には、先刻の虹と零夜のやり取りが過ぎる。


『ね、いいでしょ会長。べんきょー会。』
『え、あ、…そう、ですね。ええ、構いませんよ?』


“…すぐさまいつもの調子で笑ってたけど、変な間があったような気がするし、…会長なら大喜びで『大歓迎です♪』とか言うもんだと…”

まあ確かに、友達が五人も突然家に来ることが決まったら、慌てた素振りの一つも見せたところで不思議はないが。失礼な話、零夜がそういう普通な態度をとったことに、若干の違和感を感じてしまう。

“ん? 意外っていえば…”
要は無言で自分の横を歩く柚那をちらと見やった。


「お前、今日バイトはいいのか?」「…七瀬君、別に私は毎日毎時間バイトを入れてるわけではありません。」
「え、そうなのか? でも、バイト5つかけもちって…」
「ありさですね、そんなこと言ったのは。確かに累計だとそうなりますが、…そのうちの3つは、月に1、2度あるかないかの日雇いです。学生アルバイトにも労働基準法はありますし、そこまで無茶なことはしてませんよ。」
「な、なんだ、そうだったのか。」

てっきり時間さえあればバイトばかり…いや、“だけ”しているものと。確かに失礼な話だが。
現に今まで自分が神崎家を訪ねた時は、悉くバイトに出ていたわけで。

「でも、労働基準法とか言ってるが、こないだ俺11時過ぎまでこき使われたぞ。」
「男の子ですからね。仕方ないでしょう。」
「……。」

…そうなの?

 

 

 

学園を出てそれなりに、30分は歩いただろうか。そういえばどのくらいかかるのかを聞いていなかったような気がするけれど、徒歩で行ける距離なのだろうか、と誰もが思い始めた頃。

「ここ、なんですけど。」
「「「……。」」」

絶句。

 
すいません、とりあえず『家』とかいってごめんなさい。ところでここは日本だった筈ですが、いつの間に外国のお屋敷に来てしまったのでしょう?

大きく立派な門の向こうは噴水こそないものの、これまた美しく手入れの行き届いた庭が広がっており、様々な花がそこに咲き誇っている。その奥に見えるお屋敷も当然立派なものだったが、…実をいえば、彼らはこの屋敷に見覚えがあった。

「これ、屋上から見えるあの屋敷だよな?」
「うん。」

でけぇ。

「やっぱ黒塗りの車(※想像)で送ってもらえばよかったかも。」
「今更…、つーかソレ単にお前の妄想…」

だがそこへ、彼らのすぐそばに一台の車が横付けされる。
黒のメルセデス・ベンツ、Sクラスである。

「・・・」

しょう再び絶句。

「わー! ほら、見なよ。あたしの言った通りじゃん!!」
「な、何でお前が威張ってんだよ!」

自分のでもないくせに。

「? でもあの車、うちのじゃありませんよ?」
「「…え?」」

その言葉に思わず二人が顔を見合わせた時、ベンツの後部座席のドアが開き、

「九条! よかった、間に合った。」
「!」

あろうことか、そいつが降りてきたのだ。

「うわー…」
“こんなとこまで…”
「貴方、今日は編入の事後手続きがあるんじゃなかったんですか?」
「それなら問題ない。ちゃんと終えてきたから。」

左様ですか。

すると、斑葉にばかり気をとられていて気づかなかったが、彼の傍らに一人の老翁が佇んでいる。礼服姿で静かに控えていた老翁は、話が一時途絶したのを見計らい、斑葉に、そしてその場にいる全員に向かい腰を折った。

「いつも坊ちゃまがお世話になっております。執事の『畑中』と申します。」

名前に強くアクセントを置き、低い腰を上げる。思わず云われた此方が恐縮しきっていると、斑葉が「さっさと戻れ」と短く執事を促した。

「坊ちゃま、お迎えは如何いたしましょう。」
「呼ぶ。」
「かしこまりました。」

それだけ聞くと再び、今度は深く一礼し、彼は斑葉から一歩後ろに下がるように距離を置いた。

「さ、行こう、九条。」

斑葉の顔に笑みが(零夜に対してのみ)広がる。そんな斑葉の背を目で追い、見えなくなるまで、執事はそこで主を見送っていた。

 



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