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…−−。

校舎の離れに存在する棟の四階。
学校に似つかわしくない豪華な扉。その中央には黒のプレートに金字で『理事長室』と彫られている。
その室内に、九条零夜はいた。


「ふふ、あなたの方からこっちに出向くなんて、珍しいんじゃない? 零夜。」
「そうですね。今日もすぐお暇させて頂くつもりです。先日のお礼を言いに来ただけなので。」
「風戸薫の件?」

笑みを浮かべて問い返す彼女の言葉に、零夜は黙って頷く。
膝裏まではあろうかという艶のある黒い髪。これほどの学園の理事を任されるにしては若すぎる彼女が浮かべるその笑みは、どこか零夜が普段浮かべるものと、よく似ている気がした。

「気にしなくていいわよ〜。あんなの、私の権力を以てすれば簡単に…」
「語弊のある言い方はやめて頂けますか? 事実、この前の件は彼一人の非ではありません。向こうが自分達から喧嘩を売っておいて被害者面を通すつもりなら、彼にも責を負う義務はない筈です。」
「ふ〜ん、ま、それはそうかもしれないけど、…事の真意なんて、実際はどうでもいいのよ。結果しか見ないバカな大人たちを黙らせられるのは、同じ大人で、相応の権力のある者だけ。」

私のようにね。
とでも言いたげに鼻高々な彼女から顔を逸らしながら、零夜は見えないように息を吐く。

「零夜様、カシス紅茶をお持ち致しました。」
「あ、雪さん。ありがとうございます。」
「ちょっと、雪〜! 私は?」
「奏様には先程ご所望のアールグレイをお持ちしたでしょう。…それと、本日の総会の議題となる文書に目を通すのもお忘れなく。」
「うわー、まためんどくさい…」

理事長、もとい奏(かなで)と呼ばれた女性は、椅子を斜めに倒し、さもめんどくさそうに天井を仰いでいる。雪と呼ばれた秘書らしき男は慣れているのか見向きもしない。いや、彼の装いから察するに、秘書というより『執事』といった方がいいかもしれない。一学園の理事長に執事?と思うだろうが、この部屋とその中にある調度品の絢爛さからすれば、自然と違和感は感じられなかった。

「お忙しいようですし、そろそろ僕は失礼しますね。ごちそうさまでした。」
「…零夜〜。あんた、結構真面目だから、生徒会長って役職変に気負っちゃうと思うけど、頑張んなさいよ〜。」
「……。」

困ったような笑みを浮かべ、零夜は軽く会釈しその部屋を後にした。奏はといえば、零夜が口にしていたティーカップの淵を指先でなぞり、何やら含み笑いを洩らしている。

「それにしても、まだ生徒会長になって間もないのに、随分奮闘してらっしゃるようですね。先日の件といい、奨学金の時といい…」
「まあね〜。まだ会長にすらなってないのに、奨学金制度の改正案出された時は何事かと思ったけど、」

そう言って、チラリとデスクの上に視線を落とす。そこには零夜が出て行くまで他の書類で隠すようにしてあった、『学園在校生の調査書』があった。

二年一組『七瀬要』
一年六組『李紗嗚』
二年七組『枢木虹』
一年五組『成宮しょう』

そして−


「なるほどねぇ…。」

 

二年一組
『神崎柚那』

 

 

「ったく、いくらなんでも生徒一人ひとりに構ってたらキリがないわよねぇ。生徒会にどれほど力があると思ってるか知らないけど、漫画やアニメじゃあるまいし。」
「…文句を言う割には随分と楽しそうですね、奏様。」
「ふふっ、そりゃあね〜。」

二人分のカップを片付けながら雪がなんとなくそんな言葉をかけると、奏がいかにもなしたり顔を浮かべていた。
これは…またろくでもないことを考えているな。と、雪は密かに思う。そんな執事の思いを知ってか知らずか、若き女理事長“九条”奏は、妖艶な笑みをその口元に刻んだ。


「可愛い甥っ子のお手並み、しかと拝見しようじゃないの。」
 

to be continued

 



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