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「九〜条!」
「触らないでください。」
「フグッ…」
「随分とお久しぶりですねぇ、…斑葉くん、でしたっけ?」
「九条、前々回の途中から俺の存在が抹消されてる気がするんだがどういうわけだろう。九条が火傷したって聞いて一目散に駆けつけたし、前回だって生徒会室にずっといたはずなのに…。」
「仕方ないでしょう。作者さんが、貴方にはもう用はないと仰っているんですから。」

・・・・

「なんだと!?」
「『テメェにくれてやる尺はねぇんだよ』とも仰っていますよ?」
「…九条、それ本当に作者が言ってるのか?」
「勿論ですよ。ね、作者さん?」


・・・・・・。


「大体僕は忙しくて、あなたに構ってる暇はないんですよ。…ねぇ、要くん?」

「……。」

「? 要くん? 今日もお仕事、いっぱいありますよね?」
「………。」





『迷惑なんです。』




「ハァ〜…」
「か・な・め・く〜〜ん? もしも〜し、聞こえてますか〜?」

「…? 会長、何やってるんですか。いつまでも如月と遊んでないで、今月分の決算、報告書にまとめちゃって下さいよ。」
「遊んでないですよ!? というか要くん、それ柚那さんの仕事ですよね? しっかりしてください!」


 

 

 

昨日の神崎の言葉が、耳をついて離れない。言いようのない蟠りがぐるぐると渦巻き、気分が悪くなる。
自分は何て鈍感なんだろう、−−なんて、


よくよく考えれば解ることなのに。
神崎が、あんな状況で…恐らく誰にも何も話したことがない、というのは、それ相応の思うところがあったからだ。
…考えてもみろ。もし自分に親がいなくて、あれだけの兄弟を一人で扶養しなければならなくなったら。俺だって自分の兄弟を施設になんか預けるのは御免だ。…だとしたら、必要以上に人と干渉されることなど、嫌に決まってる。リスクだって高くなる。



「あ、お帰り、要。」
「……。」
「?」


俺に出来ることなんてない。それも理解している。
大体たかだか高校生の分際で、複雑な家庭事情をどうにか出来るとも思っていない。自惚れるな。

「……。」
「ねぇ要、お腹すいちゃったんだけど。…今朝の煮物の残り、食べちゃっていい?」

「…姉さん。」


けど、だからといって、

「ちょっと、出かけてくる。夕飯は帰ってから作るから、ちょっと我慢してて。」
「えー、何それ…って、ちょっと! 要!」


知ってしまったものを知らなかったことに出来る程、俺は器用な人間でもない。








−−…。

「「あ、カメ!」」

ズルッ…


か、カメ?

「お前カメっていうんだろ!」
「姉ちゃーん、カメがまたストーカーに来たー!」

「俺はカメでもストーカーでもない、要だ!」

このくそがき共…


「七瀬君?」
「神崎。」

よかった、間に合った。
そう思ったのは恐らく俺の方だけで、神崎の表情は、どこか居心地が悪いように見受けられる。

…まぁ、昨日の今日じゃ、無理もないか。


「とりあえず、お邪魔します。」
「七瀬君? ちょっと、困ります。何の用ですか?」

一礼して上がり込もうとする俺を押し戻す神崎。しかし、それも俺が両手に持つものを目にし、躊躇われる。

「今日はちゃんと生徒会にも出たじゃないですか。お説教される覚えはありませんよ。」
「…お前は俺を何だと思ってるんだ。別に説教だけに来るわけじゃない。」
「?」

「神崎、お前これからまたバイトだろ?」
「え…はい。」
「夕食は?」
「…帰ってから取りますけど。」

既にバイトへ行く支度をしていたらしい神崎は、口ごもりながらもそう言う。奥の居間へと視線を移せば、他の兄弟たち(一番末っ子除く)の分のインスタント食品が、台に乗せられていた。


「……思った通りか。」
「え、」
「こんなものばかり食ってて、体が持つわけないだろう?」

こないだ来た時、外に置かれていたゴミ袋の中身は、その殆どがカップめんの空器やらインスタント食品の袋だった。まさかあれ全部が、この家で短期間に消費したものとは思っていなかったが。


「お前バイトバイトで、全然体調管理が出来ていないじゃないか。 そもそも睡眠はちゃんと取ってるのか? 兄弟は?」
「そんなこと…七瀬君には関係ありません。」

またそれか。

「まあいい。それより軽いもんでもいいからちゃんと食っとけ。」

ここに来る途中で色々と買ってきておいてよかった。買い物袋を広げ、勝手なこととは分かりつつも台所を探す。
ここに着く前から、神崎の文句は十分覚悟していた。この際制止は聞かないことにしよう。


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