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「で、」

次の日。

「なんでまた帰るんだ、あいつは。」

昨日釘を刺したばかりだったのに。

「最近忙しいみたいですからね。仕方ないでしょう。」
「けど、高校生ですよ? これだけバイト入ってるのおかしくないですか?」
「要くんのことだから、『学生の本分は勉強です!』とか思ってそうですよね〜。」
「当然です。小遣いなんて、親から貰う微々たるもので充分なんですから、バイトなんてすべきじゃありません。」
「まあでも、こちらのお仕事も家でやると仰って、必要な書類は全て持っていかれたようですし、……おや?」

その時、計画書に目を通していた会長が、何やら考えるような素振りを見せた。

「どうかしましたか?」
「あ、いえ…。この書類の作成って、柚那さんに任せていたと思うんですけど見当たらなくて…。終わったとは聞いていたんですけど、…ひょっとしたらまだ持ってるのかもしれませんね。」
「…いつまで提出ですか?」
「それが、明日の朝までなんですよ。…困りましたね。この辺の書類は柚那さんにしか分かりませんし。」


今まで2日続けて休むなんてことなかったのに。それに書類を忘れるなんてのも珍しい。

「……。」
「…そうだ、要くん! 帰りに、柚那さんの家に行ってみて頂けませんか?」
「え、…はぁ?」

思わぬお達しが出てしまった。発案した当の本人は手を合わせ、名案と云わんばかりの笑み。…いや、そんな顔されても。

「俺、神崎の家とか知りませんよ。」
「僕も知りません。」
「……どうやって行けと?」




『はいはい、もしもー。』
「枢木、お前神崎の家分かるか?」
『どったのいきなり。ってか今部活中…』

−中略−

『ふうん。ま、私も知らないんだけどね。』
「え、お前、神崎と仲いいだろ。」
『だって柚那、休みの日とか遊び誘っても難しいんだもん。家なんて分かるわけないじゃん。』
「…そうか。」

あ、でもバイトなら昨日のスーパーに行けば…

「要くん要くん、」
「はい?」
「名簿に住所ありました。」

「…会長、そういうのは早く言ってください。」








−−…。

生徒会業務が終わってからになったが、今の時期はまだ日が浅くて助かった。暗くなったら家一軒見つけるのも一苦労だ。…というか、昨日のスーパーの近くかと思ったのに、そういうわけじゃないんだな。

「……。」



『え、スーパー? そこでもバイトしてんだ。』
「も?」
『私が知ってんのはミ●ドのバイトだよ。…一昨日も行ったから、辞めたわけじゃないと思うけど。』

「……。」








・・・・・。

この家、だと…思うんだが…。


メモにあった住所に着くと、住宅街にも関わらず他の家々から数棟分離れた所に建つ、一軒の家が目に付いた。
今時珍しいトタンの屋根が剥がれかけている。相当年季の入った外観の家屋に、ここが神崎の家だと思うと、…正直、びっくりした。
別に具体的な想像をしていたわけじゃなけど。



ガン! ガン!
「!」

インターホンがなかったから、仕方なしにガラス戸をノックしてみた。叩いておいてなんだが、予想以上に大きな音に思わず肩が跳ねる。

……。

しかし、明らかに聞こえる程のノックをしても、中から人が出てくる気配はなかった。
…留守か?


「−−、」
「−−−、」

その時、俺は気づいていなかった。戸の先にばかり注意を向けていた俺の背に、人影が忍び寄っていたことに。


「「…せーの、」」

「?」
「「わあぁぁあぁぁ!!!!」」
「! えぇぇ!!?」

ガシャンッ!

なんだなんだなんだ!?
小声で掛け声のようなものが聞こえた気がして振り返った瞬間、鳩尾から腰にかけて衝撃が走り、背後のガラス戸に思い切り背中を打った。

た、タックルされた!?

ワケも分からぬ攻撃に、腹に乗った重みと胸のムカつきを覚えながら、俺は重くなった身体を慌てて起こす。

「なッ、何だお前ら!!」

「お前こそなんだ!」
「うちに何のようだ!」

「はぁ!?」

子供だった。
小学生の子供が二人、我が物顔で俺の腹の上に跨っていた。

「けい、“ふほーしんにゅー”だぜ。」
「げ、コイツ鼻血出してやがる。見ろよ、かい、“へんしつしゃ”だ。」
「なッ、」

って、鼻血!? いつの間に…

「これは今お前らが…!」





「螢、魁? そこで何してるの?」

「…?」


鼻と口を押さえた状態で無理矢理身体を起こそうともがいていると、ふと女の声が門の方から聞こえた。

「…かん、ざき?」

じゃ、ない?

「? どちら様でしょう?」
「ふほーしんにゅー!」「へんしつしゃ!」

「っ、違うって言って!……ッう、」

まずい。さっきの鳩尾タックルで吐きそうだ。堪えろ、俺…。

「…あの、大丈夫ですか?」
「ッハァ、ぅ……えっと、…ここ、神崎…さんの家で、いいのかな?」
「? はい、そうですけど。」

やっぱりか。
目の前で心配そうな表情を浮かべる、神崎によく似た面立ちの中学生を見て、彼女が神崎の妹であることを確信する。

「うちに何かご用ですか?」
「あ、そうだ神崎!」
「?」

…じゃなかった。えっと、えっと…、






「ゆ、……柚那…さんは、いらっしゃいますか?」







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