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制服から着替え、自転車で買い出しに出る。こんなことなら、さっき帰りに寄ってくるんだったな。
最近、滅多に料理なんてしようとしなかった姉さんが、俺がいない間にこっそり料理をするようになった。もっとも、あんな始末のため、こっそりも何もあったもんじゃないが、食材を無駄にするのは勘弁して欲しい。
とりあえずみじん切りにされた肉じゃがの具はコロッケにするとして…あと今夜は何にするか。
そんなことを考えている内に、スーパーに着いた。新装開店セールをやっていると聞いたから、隣町まで来てはみたが…。
−−…。
なかなか悪くない。隣町と云っても自転車で20分程の距離だし、また来るか。安く手に入った鮮度のいい野菜や魚を見ながら、カゴをレジへと持っていく。
「いらっしゃいませ。」
「……え、」
考え事をしていた耳に、聞き慣れた声が聞こえた気がした。
「!! か、」
「お会計、1780円になります。」
「神崎!?」
一瞬の静寂の後、ザワッとその辺が騒がしくなる。…しまった。
思わず大声を出してしまった口を手で押さえ、体を小さくする。
「袋はご入り用ですか?」
「………いらん。」
変わらず店員として対応してくる神崎に、今度は極端に声を小さくしてしまった。
ここでバイトしていたのか、とか、奇遇だな、とか。そういう思いもなくはないが、言葉をかける気にはなれない。
「2080円から…300円のお返しになります。」
「……。」
「ありがとうございまし」
「神崎、生徒会を度々休むのは、この為か?」
「……」
神崎はあくまで知らぬふりを決め込むつもりらしかった。
そうはいかない。バイト先で合ったのも何かの縁だ。
「バイト自体を反対するわけじゃないが、書記としての仕事を疎かにするようでは、こちらとしても困るんだ。今日は役員内での定例会だからよかったが、総会なんかで今回みたいにいきなり休まれたら…」
「仕事に穴は空けません。」
漸く神崎が、こちらの問いに応えた。
しかし…
「生徒会でもバイトでも、欠損があれば埋め合わせはします。…だから、ここでこういう話をするのはやめてくれませんか?」
「けど、」
「いらっしゃいませ。」
「!」
っと、…さすがに客が来てから話し続けるわけにもいかない。神崎の目が、心なしか行ってくれと訴えているし。
「…ありがとうございました。」
分かってるんだか分かってないんだか。
買ったものを手早く袋(持参)に詰め、仕方なしにその日は店を後にした。
帰り道、少しばかり自分が落胆していることに気づいた。
生徒会役員になってすぐの時、それはもうよく味わった感覚。会長は仕事もせずに、俺“で”遊ぼうとしてくるし(まあ、最終的には仕事もしてくれるが)、李は寝てばかり。枢木と成宮も加われば、それはもう仕事どころではない程に騒がしくて…
いれば黙々とすべき事をしてくれる神崎が、凄くありがたかった。
確かに、あいつは休んだ分の仕事もちゃんと上げてくれるが、問題はそこじゃない。
どうしたものか…
…サーモンと玉ねぎが安く手に入ったから、今日は肉じゃがコロッケとサーモンのマリネにして…
あのカボチャ(姉さんが味もつけずに焦がした)を中だけでも救出できたら、スープにするのも悪くない。
数分後には、完全に思考がそっちにシフトしていた。
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