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キャア、という耳障りな悲鳴が聞こえる。
そういや今は丁度休み時間だったな。


教師どもを呼ばれると、また面倒なことになりそうだ。

俺は小さく舌打ちした。

「……フッ、」
「?」
「ククククッ…」
「……。」

俺を殴ったそいつは笑っていた。
拳を握りしめたまま、肩を震わせるその様は、気違いでないかとすら思う。


「ハハハッ、…ハァ、
……おい、こいつホントに弱くなってるぜ?」

「!」

その言葉が合図となった。
気づけば、そこかしこでこちらを窺っていたと思われる奴らが、俺を囲むように集まってきていた。

「うわ、マジかよ。」
「えー、俺風戸に賭けてたのに…。」
「後でコロッケパンおごれよ。」


…? 何言ってんだ、こいつら。


「だから言ったろ? 生徒会と連んで授業に出るようになったマジメちゃんは、きっと毒気抜かれちまってる、ってよ。」
「つか元々こんなもんだったんじゃね? お前、確か前にケンカふっかけてぼろ負けしてたみてーだけど。」
「違っ、あれは…オレが手加減してやったんだよ。」

いや、そもそも誰だお前。

全く見に覚えはないが、前にボコッた奴らしい。どうも、最近“チビ”と一緒にいる俺を不審に思い、腕試しついでに…いや、好機とでも思い、性懲りもなく来たってとこだろう。

こんな奴ら、不意打ちでもなきゃ何人いようとやられるわけがねぇ。

「クンクン、」
「…お前は向こう行ってろ。」
やべ、こいつのことすっかり忘れてた。
袖を引っ張られる感覚に視線を落とせば、珍しく困り顔のチビが視界に入る。

「おっと、ジャマはダメだぜ? 生徒会のちび助〜。」
「! なッ、」

そう思うが早いかチビの体は、奴らの一人にヒョイと持ち上げられ…

「おい、そいつは離せ。関係ねぇだろ。」
「いやいや、こないだ俺らのダチがよ、七瀬(前会長)とコイツんとこの会長のせいで退学になっちゃってさ、」
「最近こいつらいい気になってるみてーだし、ちょーっと見せしめにこのチビ拉致ってやれば、おとなしくなるかなぁ〜…なんて。」

「…!」

「あ、もちろんソイツらみてぇに、すぐバレるようなバカはしねぇよ? まあ、とりあえずはお前ボコッた後で、」
「……。」
「考えることにす」

「…おい、」

「る?」


バカ共の戯言をここまで“聞いてやった”自分を、俺は心の中で誉めてやった。

「一発いれられたぐれぇで、いつまでいい気になってんだ。」
「は?」

とりあえず、チビを抱えたままガードがら空きになってたソレの顔面を、俺は思いっきりぶん殴った。
そいつの体がぶっ飛ぶ瞬間、チビの襟首を掴み、そのまま他の奴らに蹴りを入れていく。

「なッ、なんだコイツ! 急に…」
「いきなり殴りつけてきたのはテメェだろ、バカが。」
「ふぎッ!!」



「…あ、あれ?」

予想以上に弱えな、こいつら。最初に殴ってきたヤツの背を踏みつけていると、間抜けな顔をしながら徐々に後退していくのが一人。
確か、前に俺にケンカ売って(覚えてねぇけど)、“自称”手加減して負けてくれたアホだったか。


「待てよ。」
「!? うわわッ、……あ、あの、」

首掴んで逃げねえように持ち上げてみたが、
…やっぱ、チビより重いな。

「……。」
「ぁ、………相変わらず、お強いッスね〜。……なんて。」
「これ、腕疲れるな。」
「え? お、うわあぁぁあぁ、待ッ」



ゴシャッ!




げ、なんかスゲェ音した。
掴み上げたソイツの頭を、重みにまかせて地面に叩きつけてみたはいいが…。

‥‥‥。
ま、打ったとこ顔だし、大丈夫だろ。こいつなんかウゼェし。
俺は漸くチビを降ろし、その手を離した。今更だが、ずっと襟首掴んで持ち上げて、首が締まってしなかったかと、チビの顔を覗き見る。
首こそ締まってなかったものの、ぶんぶん振り回す形になって目が回ったのか、足元はふらふらと覚束ないようだった。

「チビ、大丈夫だったか?」
「…クン、クン?」

声をかけられ、やっと意識がはっきりしてきたのか、寝ぼけたように辺りを見回す。

「……!」
「? チビ? どうかし…」

見開かれたチビの表情に、一瞬何だか分からなかったが、俺はすぐにハッとした。考えてみれば、ここ最近一緒にいることは多かったが、こうやってこいつの前でケンカしたのは、初めてだった気がする。

…こいつが、こんなのに慣れてる筈がねぇ。


「チビ…」

無意識に手を伸ばす。
…なんだ? 指が、震える。



『ひっ!』

「!」


頭ん中に、こないだのヤツの悲鳴が、震えていた身体が浮かぶ。
俺はどうしてか、それ以上チビに手を伸ばす事が出来なくて…。


「…っ」

最後に俺の手を見やり、顔を強ばらせたチビを…
慌てたように踵を返し、走って俺から離れていく小せえ背中を…

目で追うことすら、今の俺には億劫に感じた。





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