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「……。」
今日は、学校に行かなかった。
…違う、行“け”なかったんだ。
“ったく、アイツら朝っぱらから来やがって…”
登校中を狙われたのは、別に初めてじゃない。これだけケンカが長引いたのは久々だったが、学校にいったところで、最近は授業に出てるわけでもない。
“チビにはまた後でエサをやりに行けばいい…”
近頃校舎裏に出没する一匹のネコを思い浮かべた。一回食いもんをやっただけでなついちまったそのネコに、ズルズルとエサをやり続けている。今ではもう、それだけのために学校に行ってるようなもんだ。
『クンクン…じゅぎょー、出る…』
「……。」
…最近、俺の周りをチョロチョロする“チビ”が、もう一匹増えた。
頭一つ分は小さいと思うそいつは、同じ学年の同じクラスだったらしく、驚くことに生徒会なんて大層な役職についていた。
“人形みてぇなヤツ”
俺がどんだけ睨みきかせても追っ払っても、眉一つ動かさず授業に出ろ出ろって…。
ウルサイったらねぇ。
ずっと俺につきまとって、自分こそ授業に出てなかったみたいだが…。
能面みてぇな顔が脳裏をよぎる。
“…とりあえず、ネコ缶買ってくか”
ドラッグストアの前で足を止め、俺は店内へと入った−−。
「……何してんだ? コイツ。」
目の前で寝息をたてるソレに、薫は頭を抱える。身体を丸くし、ネコと揃って眠る様は、同じ類のもの…小動物のように見える。
ピクッ
「……ニャァ〜」
俺の気配に気づいて起きたんだろう。寝ぼけたような鳴き声を上げながら、ネコが大きく欠伸する。
手に持っていたレジ袋を見ると、喉を鳴らしながら駆け寄ってきた。やっぱり、パンよりこっち(ネコ缶)の方がよかったようで、この頃は前以上にがっついていた。
「……ん」
“お、”
ちょうど缶を開けた時、小さく身じろぎしてチビが起きた。
「…クンクン?」
「その呼び方やめろって何度言えば分かんだ。」
いつも以上にボケたようなツラで、そろそろと視線をさまよわせている。
「クンクン、じゅぎょー…出る」
「……フッ、」
こいつといると、どうも調子が狂う。
「もう授業終わってんぞ。バーカ。」
「?」
一体いつからここにいた?
どんだけ寝てんだよ。
らしくねぇ。思わず笑いそうになり、俺はキョトンとするチビに、ガキみてぇな悪態をついた。
「…!」
しかし、それまで寝ぼけていたようなチビの目が、大きく見開かれ、これまで見たこともない表情に俺まで目を瞠る。
「クンクン、どう…したの?」
「? 何が…」
「ち…」
“…血?”
チビの小さな手が、俺の頬にそっと触れた。
思い出したようにチリチリとした痛みが走る。さっきのケンカで切った、ほんの小さなキズ。
自分でも忘れていたが…。
「…だ、いじょう…ぶ?」
「………。」
−−本当に、調子が狂う。
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