4ページ/8ページ
−−俺の姉、七瀬葵は、会長のことを酷く嫌っている。
それというのも、先程本人が言っていたように、九条零夜には会長としての自覚が欠けている、とかそういうことで…
姉曰く、お金持ちのおぼっちゃまが、“興味本位”で生徒会長などという役職に就いているのが許せないらしい。
他にも色々と理由があるが、主なものはそれで、あとは、まぁ…
単純に、
“嫉妬”だ。
確かに、態度や素質的に見ても、会長より姉の方が、生徒会長という役職には向いているといえよう。
弟の欲目とかではなく、客観的に見て、断言出来る。
しかし、生徒会役員を決める役員改選選挙の際、俺たちの時と姉さんの時では、決定的な違いがあった。
生徒会長に対する、支持率の差である。
基本的にうちの学校は、役員をやりたいという立候補者がとても少ない。
かく言う俺たちも、自ら立候補したのは一人もいない。大抵が推薦で選ばれ、おまけに人数も限られる。
だから選挙といっても大方、その人物を支持するかしないかの、二択で決定される。
姉さんの時は、ちょうど過半数くらいだったか。
それが会長の場合、凡そ9割…つまり、殆どの生徒が支持したものだから、姉さんも相当面白くないんだろう。
尤も、会長は全く気づいていないようだが…。
どうしてか、そういったことには鈍感なんだよな。あの人。
「…………ムカつく。」
「は?」
「あいつよ、九条零夜。こっちが嫌味言ってるのに、顔色一つ変えないで…。あのバカに丁寧な口調も、逆に見下されてるみたいで癪にさわる。」
「お前の方が子供なんじゃないのか? だから些細なことで、目くじら立てる。」
「……。」
「弟の要君の方が、よっぽど大人びて見える。」
「うるさい。そんなの分かってるわよ。だから会長にもあの子がなればよかったのに…。」
「…俺としては、副会長の引き継ぎに要君がなってくれてよかったけど。」
「とにかく、私は認めないわ。あんな男が生徒会長だなんて、…絶対に認めないから。」
…−−。
「…要くん、僕、お姉さんに何かしてしまったんでしょうか?」
「え…」
放課後。
いつも通り生徒会室に入ってきた会長が、半ば気落ちしたようにそう訊いてきた。
「お姉さん…っていうと、俺の?」
「はい、葵先輩です。何か仰っていませんでしたか?」
………。
今度は何したんだ、あの人!
「か、会長…。姉が、何か失礼を…?」
「いえ、そういうことではないんですが。」
「……が?」
「? …えっと、珍しく今日は何度もお会いして、何だか視線が冷たい…といいますか、鋭い気がして…。ご挨拶をしても気づかれないご様子でしたし…。もしかしたら気づかないうちに、何か機嫌を損ねるようなことでもしてしまったんじゃないかと思いまして…。」
「……。」
なんだ、そんなことか…
などと思ってしまったのは、しゅんと肩を落とす会長に対し、不謹慎だったと思う。
しかし、姉の機嫌を損ねているのは、別に今に始まったことではない。
寧ろよく今まで気づかなかったものだ。
「え…っと、会長。あまり気にしなくていいと思いますよ? たまたま虫の居所が悪かっただけで…。」
「………そう、ですよね。葵先輩は、些細なことで人を毛嫌いされるような方ではありませんし…。」
いや、それがあるんですよ。しかも思いっきり理不尽に。
「お昼の時もきっと、僕の声が小さかっただけでしょうから。」
露骨に無視し始めたな、あの女。
そうは思っても、吹っ切れたように笑顔で紅茶を啜る会長にそんなことを言える筈もなく…。
back