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−−…。
前の生徒会のことは、言うべきじゃなかった…。
翌朝、俺は頭を抱えながら自分のクラスへ登校していた。
『あ〜、確かに前の会長…七瀬先輩のお姉さんは、いかにもって感じの生徒会長でしたよね。』
『ちょっとでも校則違反してるヤツがいたら、すごい迫力で注意してたからね。
…ってか、七瀬〜、やっぱなんだかんだ言ってもお姉さんに憧れてんだ〜。』
『なッ!』
…。
違う! なぜみんな、俺がちょっとでもあの人の話をするとそういう目で見るんだ。俺は断じてシスコンと呼ばれるものでは、な…
「あら、要じゃない。」
「!」
ふと、耳慣れた声にハッとして前を見る。
「…姉さん。」
たった今考えていた人物が、生徒指導室から出てきたところだった。
「全くあいつら、昨日は散々私を走らせて…、いい気味よ。」
腰に手を当て、フンと鼻をならす姉。
…どうせまた、些細なことで誰かを指導室送りにしたんだろう。先生方も朝から大変だ。
「こらそこ! 廊下を走らない!」
そう考える今も、姉はその辺をふざけながら走っていた何人かの女子に注意を施している。
つい数ヶ月前までこの学園の生徒会長をやっていた俺の姉、葵は、元々人一倍正義感というものが強かった。
面倒だと分かっていても、規則に反する者がいたりすると、注意せずにはいられない。
故に、彼女が生徒会長という大掛かりな役職についたのは、必然ともいえよう。
最も、誰に対しても温和な会長とは違い、当然その際の支持率も、大きく分かれるものとなったが…。
「最近、生徒会の方はどう? 副会長として上手くやってる?」
「………まぁ、」
姉はいつもこういったことを聞いてくる。自分のいた生徒会が、今現在どのようになっているかがとても気になるらしい。
……加えて、
「おはようございます、要くん。」
「あ、会長…」
そこで、登校してきた会長とバッタリ出くわしてしまった。
…しまった。なんてタイミングだ。
「あぁ、葵先輩もご一緒だったんですね。おはようございます。」
「……。」
嬉しそうに丁寧な会釈をした会長に、姉さんの方は露骨に顔を顰める。
「…あなた、会長の任を任されてもう一月経つけど、何も変わらないのね。」
「え、」
「! ちょっ、姉さん!」
出会い頭にいきなり何を言うんだ。
「最初は新人だからってことで大目に見ていたけど…、そのヘラヘラした顔も、緩慢なその態度も、生徒会長らしからぬものよ。
…それにあなた、随分と職務を怠慢しているそうじゃない?」
「か、会長! もうすぐ予鈴がなります。そろそろ教室に…」
「まだ話は終わってないでしょ? それに、これは引き継ぎとして大事な話なの。…あんたの方こそ、先に教室に行ってなさい。」
話じゃなくて只の嫌味だろう。
二人を引き離そうとした俺の気遣いも空しく、姉さんは会長に目を据えて、放そうとしない。
「……。」
暫しの間会長も、それに応えるように視線を交わしていた。
…その気まずい空気に、何だか胃が痛み、本当に俺だけでも教室に行ってしまおうか、と思い始めた矢先、
「…そう、ですね。」
会長が漸く口火を切った。
「僕に至らない点が多くあるのは事実なので、弁解の仕様もありません。残念ながらこのヘラヘラした顔も、態度も、生まれつきなもので…。」
「……そういう所が気に入らないって言ってるの、分からない? 自覚があるなら、少しはそれらを改善する意志ぐらい見せたらどうなの?」
会長の返答に、姉さんは苛立ちと嫌悪を露わにする。
しかし、
「ええ、先輩の面汚しと呼ばれぬよう、今尚会長としての態度、職務諸々を模索中です。…どうかまた暫しの間、寛大なお心で見ていて頂ければと思います。」
「ッ…、」
朗らかな笑顔だった。
姉さんの嫌味、皮肉など、少しも苦にしていない様子で、姉さんも完全に言葉を失っていた。
「私などへのご指導、傷み入ります。
…ではそろそろ、本当にHRが始まってしまいますので、…要くん、行きましょうか。」
「あ、…はい。」
「……。」
そう言うと会長は、再び姉に向かい会釈をし、教室の方へとゆっくり歩き出した。
俺もすぐに後へ続く。
振り向くと、姉さんが実に不愉快そうな顔をしていて…
それに全く気づかず、上機嫌で、恐らく本当にアドバイスでもしてもらったと思っている会長を見て、俺は、らしくもなく少し笑ってしまった。
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