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会長がこんな風に、人に嫌悪するのを見たのは初めてだった。
如月が転校してきてからの会長は、俺の知らない顔を見せる。

それ程長い時を過ごしたわけではないが、俺はこの人のことを、何も知らないんだと実感する。

こんな人でも、確かに俺は憧れて副会長についたというのに………



「ふ〜、漸くお邪魔虫が退場しましたね。騒がしくしてしまってすいません、要くん。」
「いえ、さすがにアレは会長のせいではありませんし。…けど大丈夫ですかね? あいつ、こないだ窓から入って来ましたよ。」
「! そ、そうでした。窓にも鍵をかけておかないと…」

そう言って、今度は窓の方へと駆け寄った時…




ガタッ!

「「!?」」

先刻如月を締め出し、鍵をかけたドアから、ガタガタとこじ開けようとする音がなった。
まさかまたヤツが、…そう思い、ドアの磨り硝子に映る影に目を向けると…、

「あれ? ちょっと〜、何で鍵閉めてんの? あたし鍵持ってないんだから、…蹴って入っていい?」

「!!」
「く、枢木ちょっと待て!!」
「今すぐ開けますから、それだけは止めて下さい!」

…−−。



結局その後は枢木が、数十分後には成宮も加わり、会長の短かった集中力も底をつき、すっかり仕事どころではなくなった。


「ハァ…、試験も近いから早く終わらせようと思っていたのに…。」
「まぁまぁ、いいじゃないですか。試験といってもまだ二週間はありますし。」
「甘いですね。テスト二週間前が最も重要なんじゃないですか。」

ヘラヘラと笑ってごまかす会長とは反対に、枢木と成宮がうっ…と言葉を詰まらせた。絶対テストのこと忘れてたな、こいつら。

「全く、どうしてこう先延ばしにするんですか。今に始まったことではありませんけど…。
前の生徒会は、この時期になるとあっという間に仕事を片付け、試験勉強に励んでいましたよ。」


軽く、少しばかり嫌味を込めて、俺はそんな言葉を零した。

こうなったら対抗心でもなんでもいい。
これで少しはやる気が出たりしないもんかと、そう思って言ったのだが…



「あぁ、そういえば前の会長って…」

成宮が思い出したように声をあげる。
にこっと微笑んで、こちらに視線を移す会長を見て、すぐに自分が言ったことが失言だったと気がついた。

「ええ、前の会長、“七瀬”葵さんは、
…要くんのお姉さんですよ。」
「……。」









−−…。

「ちょっと、あなたたち!」
「…あ?」

ちょうどその頃、
学園の校門付近で、自転車の二人乗りをしていた男子に、一人の女生徒が、強い口調で声をかけた。

「二人乗りは校則違反よ。今すぐ降りて、おとなしく生徒指導室に、…って、あ! 」

厳しく咎めようとした彼女の言葉は、すぐさま空しい驚きの声へと変わる。
注意していた相手の二人が、知らん顔で自転車を走らせたからだ。

「待ちなさい!」

慌てて女生徒の方も追いかけようと走り出す。…が、

「逃がさ、ないわよ。…せめて、…どっちか…降り……て……ッ…」


ものの一分もしないうちに、ゼーハーゼーハーと息が上がり、ガクガクと震える足が崩れるように、その場にへたり込んでしまう。

「〜〜ッ、…じ、自転車で…逃げるなんて…卑怯よ。
…覚えてなさい。顔も名前も知ってるんだから、明日指導室に送ってやるわ!」


既に遠くなった男達の背に、疲弊によって涙目になった女生徒が叫ぶ。

…その姿は酷く哀れで、

彼女こそが、奏梗学園の前期生徒会長『七瀬葵』だとは、
傍目に見ると俄かに信じ難かった…。



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