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−−…。
「本ッ当に、ご迷惑をおかけしました!」
…数十分後、
すっかり日も暮れ始めた頃。
目が覚めた麗華は、帰り際に深々と頭を下げた。
「いえ、こちらこそ、色々と失礼を…」
「な、何言ってるんですの!? 今回の件は…全て私の愚かな勘違いが招いたことで、…その…」
「? 桜小路さん、まだ顔が赤いようですけど…本当に大丈夫ですか?」
「! だだ、大丈夫ですわ!! あ、ゆ、夕日が赤いせいですわ、きっと。」
「? あぁ、そうかもしれませんね。」
「そ、そうですわ。おほほほほほほ…!」
西に沈む太陽に目を向け、零夜は納得したように頷く。
その笑顔で更に頬を染めながら、麗華の高笑いがいつまでも響いていた…。
−−…。
「ホント、騒がしい一日でしたねぇ〜。」
生徒会室に戻ると、しょうが大きく伸びをし、息を吐いた。
「確かに。あのお嬢様、かなり騒いでたもんね〜。」
“あの女、会長に惚れやがったな…”
「まぁまぁ。賑やかで楽しかったじゃないですか。」
クスクスと可笑しそうに微笑み、使われた食器等を片付け始める零夜。すぐさま要も一緒に加わる。
「…それにしても、副会長の方は随分静かでしたね。自分のとこの会長が倒れても至って冷静でしたし。」
「あぁ、なんか澄ましてて、俺嫌いなタイプでしたよ。」
しょうが悪態をつく。
すると、それまで黙って聞いていた紗嗚が、ぼんやりと口を開いた。
「…あの人、…ずっと零哥のこと…見てた…」
「え?」
「ん? あぁ、そういえば見てたな。」
「あ、それ私も気になってた! いや〜、あんまり視線が熱いからさ、この人ひょっとして会長のこと…な〜んて期待しちゃったよ〜!」
両手を頬に当て、うはぁ!!と、妙な奇声を上げる虹に、一同ドン引き。そうだ、コイツ脳みそ腐ってるんだった…。
「そ、そんなわけないじゃないですか! 皆さんの見間違い、というか考え過ぎですって。…ねぇ? 要くん、柚那さん。」
未だ三人の声に加わっていない二人に、助けを乞うように聞く。が、
「……すいません、少なくとも見間違いではないかと思います。俺も気になってたことですし…」
「だ、だとしても、別にそれでどうこうと言うわけでは…」
「………会長。」
その時、不意に柚那に袖を引かれ、話はそこで中断となった。
「何ですか? 柚那さん。」
「あの人が…」
「? ……!」
柚那の指さす方を見て、零夜はハッと目を瞠った。
「うわ!」
西日のさす生徒会室の入り口で静かに佇んでいたのは、丁度今話題に上がっていた、律桜学園の副会長、如月斑葉だった。
「こら、しょう。失礼じゃないですか。…すいません、如月さん。何かお忘れものでも?」
いつからいたのだろう。さっきまでの会話を黙って聞いていたとも思えないが…。
しかし、さすがは零夜である。あんな話をした後に、笑顔で声をかけられるとは。
「…ああ、似たようなもんだ。」
「?」
そう言って伏せていた眼を零夜へと据えると、彼はゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。
反射的に半歩後ずさる零夜。
しかし、距離を置こうとする間もなく、零夜の手が、斑葉の両の手によってきつく握られた。
「…! き、如月さん? 何を…」
「どうしても、お前に伝えたいことがあって戻ってきたんだ。……九条、零夜…。」
射竦めるような強い眼差し。
その瞳に、自分の顔が映る。
「……なん、ですか?」
少しばかり身長の高い彼を、零夜は上目で見つめ、恐る恐る問う。
すると次の瞬間、
ガバッ!
「!? なッ…」
零夜の体は、斑葉の腕の中で、抱きすくめられていた。
「…九条、
…お前のことが…好きだ。」
「「「!?」」」
「…………へ?」
耳元で囁くように、だがはっきりと言われ、思わず間の抜けた声が口をついて出る。
自分を抱きしめている男の言っていることが、零夜には理解出来なかった…。
「お前のことが、…好きなんだ。」
呆ける零夜に、斑葉はもう一度言い聞かせるように言う。
「…一目惚れだった。あれ程心臓がドキドキしたのは初めてなんだ。
お前が男だろうが、関係ない。…俺と、…俺と結婚してくれ!!」
「!! は!?」
““““え、ええぇぇぇー!!!?””””
思いもよらない愛の告白。
それどころか、出会って数時間とたたない男に、プロポーズまでされてしまった。
目の前で起きたその事実に、要としょうが石化する。
虹はそのビデオカメラどこから出した? とりあえず涎を拭け!
「九条…」
「! ちょ、…なッ…」
と、解説じみたことをしている場合じゃない。
零夜の貞操の危機が迫っている!!
斑葉は抱き締めていた零夜の体を僅かに放し、その顎を掬うようにクイッと上げる。
“!? こ、この展開はマズい!!”
直感でそう悟り、斑葉の胸を押し返そうとするも、その身体はビクともしない。
彼の顔が、徐々に近づいてくる。
その距離に、心臓が嫌でも早鐘を打つ。
「九条…、」
「ッ…」
斑葉の吐息が、零夜の唇に触れた……
その時だった。
「ぃ…」
「え?」
「〜〜〜ッ、い、いい加減にして下さい!!!!!!!!」
…バキィッッ!!!
「!!?」
次の瞬間…
斑葉の身体は宙に浮き……
零夜の身は…
守られたのであった……−−−。
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