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生徒会室に着き、零夜は一人ひとりを丁寧に紹介していく。
その間にも、斑葉の視線は零夜に向いていて……それに気づいた要が首を傾げていた。

「……そして彼が、常に僕のサポートをして下さっている、副会長の七瀬要くんです。」

下位役員から紹介していった零夜が、最後に副会長である要を紹介する。

「彼は本当によく業務をこなしてくれて、僕の代わりに会長をやって頂きたいくらいなんですよ。」
“というかたまに代わって欲しいなぁ〜、なんて…”

「ハハ、会長、ご冗談を…」
“っていうか冗談に聞こえません。”


「ふふっ、」

2人のやりとりに、横で見ていた麗華がクスクスと笑う。

「九条さんは七瀬さんを本当に信頼してらっしゃるんですね。」
「それは勿論。…ですが僕は、要くんだけでなく、ここにいる生徒会の皆さんを信頼していますし、大切に思っているんですよ。」


臆面もなく言う零夜に、生徒会の面々がはにかむ。麗華も感心したように頷き、感嘆の息を零した。

「九条さんはとても立派ですわね。」
「いえ、僕などまったく…。それよりも、ここにいる皆さんの方がよっぽど頑張ってくれています。僕はどうも怠け癖があっていけません。」
「まぁ、ふふっ…」

和やかな雰囲気が生徒会室に流れる。どうやら寡黙らしい斑葉を等閑にし、それをも埋め合わせるかのように、麗華は全員と様々な会話を交わした。



「…時に、九条さん。」
「はい?」


それは、交流も中盤に差し掛かった頃だった。

暫くジッと零夜を見ていた麗華が、ふと口を開き、何やら言いよどむ。


「あの、九条さん。私、お会いした時からずっと気になっていて、…こういうのは個性というものもありますし、初対面の私が口を出すようなことではないんでしょうけど……」
「…?」

突然の脈絡のない言葉に、零夜が首を傾げる。しかし麗華は、眼前から零夜に目を据えると、強い口調で訊ねた。


「“貴女”、……なぜ男性の制服を着ているんですの?」


「……………え?」



唐突に放たれた彼女の言葉に、その場にいた全員(紗嗚除く)が驚いたように二人の方へと目を向けた。
けれど誰より驚いているのは零夜本人で、目を丸くしてしまっている。

「えっ…と、桜小路さん、それは…」
「それに、服装はともかくとして、殿方の体にむやみやたらと触れるのはあまり感心しませんことよ?」
「!」
「淑女たる者、いかなる時も慎みを持って行動すべきです。それから自分のことを『僕』というのも…」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」

麗華の勢いに圧される零夜の前に、見かねた要が制止をかけた。


「要くん…。」

「何ですの? 貴方に言っているわけではあるませんことよ?」
「あなたこそ何を言ってるんですか! …何か勘違いしているようですが、これでも会長はれっきとした…」

「男、だよ…」


要の言葉を途中で遮り、紗嗚が後ろで口を開いた。

「え?」

麗華が振り返ると、いつの間にか眠たそうな目を擦りながら自分の服の袖を掴んでいる紗嗚が目に入った。

「零哥…男、……女じゃ、ない…」
「……。」


紗嗚の言葉に、今度は麗華が目を丸くした。
恐る恐る自分に視線を移す彼女に、零夜も苦笑しながら答える。

「えぇ。その、…これでも一応…『男』…です…。」

麗華の顔色を窺うようにそう告げる零夜は、どこかきまり悪そうに顔を俯かせる。


「……。」




−……。
室内に、気まずい沈黙が流れる。






しかし、その沈黙を破ったのは、突然落ちた陶器の割れる音だった。


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