駄目だって分かってる。俺は教師でお前は生徒。そんな事ァ毎日教卓に立つ事で、立つ度に分かっていた。毎日のように廊下で擦れ違い目付き悪く睨んでくるお前は学生服に身を包んでいる。そんなお前は間違いなく生徒だ。でも、いつ誰が教師と生徒の恋愛を違法としたのかなんて俺は知らない。それでも違法なんだって事は知っていた。








校庭の桜が満開になったこの時期は丁度新しい学年へと上がり新学期が始まる。その新学期最初の授業場所は高杉のクラスだった。



「あー、怠ィ……」



いつものだらしない格好で職員室を出て廊下を歩く。いかにも怠そうに呟くも内心今から想い人に会えると思うと嬉しい気持ちでいっぱいだ。緩みそうになる口元に力を入れて緩まないように締め直す。そして授業開始を知らせる鐘の音と共にガラッと教室の戸を開けた。



「はい日直号令ー、授業始めっぞー」



切れのない間延びした声で生徒に指示しながら教卓まで上がると教室内を見渡した。その視線の先には生徒が各々自分の席に着席している。しかし俺の視界には肝心なあの紫の頭をして普段はうつ伏せになっている高杉がいない。その代わり空席が一つ視に入った。



「アレ、高杉クンは?」


「あー、高杉の奴なら前の授業終わって教室から出ていったきり戻ってきてないっスよ?」



俺の問い掛けに教室内にいた体育系の男子生徒が応答する。



アイツ、俺の授業ナメやがって………



ヒク、と眉を一度上げて溜め息を吐く。



「わかった。ちょっと先生高杉クン捜しに行ってくるから自習しててくンね?悪ィな」



冗談じゃねぇーよ、高杉に会う為にあのクラスに行ってるようなもんなんだからな。


足早にその教室を出て階段を駆け上がる。授業をサボる場所といえば屋上か保健室か特別棟の空き教室。今日保険医は在室しているし特別棟は少し遠い。あの高杉の事だ、独りになれて面倒じゃない場所が良いに決まっている。少しずつ呼吸を乱しながら屋上の扉前まで辿り着くと一つ深呼吸をして少し重たい鉄扉を開けた。ふわっと春風が室内へと吹き込む。その春風に逆らって屋上へと足を踏み入れた。心地好い春風が吹き抜ける中、短い紫の髪をなびかせて高杉がフェンスに背を預けて胡坐を掻いている。扉が軋む音で気付いたのか閉じていた瞼を開いてこちらに視を向ける。



「なんだ、銀八か。授業サボってる俺を捜しにわざわざこんなところまで来たってのか?ご苦労なこった」



高杉はフ、と口元を笑わせて静かに口を開く。



「なんだ、わかってるんならほら、授業帰るぜ?」



相変わらず動こうとしない高杉の元へと少し乱れたネクタイを戻しながら近付く。



「やだよ、面倒臭ぇ。俺一人の為に授業放棄してンじゃねぇーよ。俺じゃなくても授業受ける生徒は沢山いるだろ?戻らねぇと授業終わっちまうぜ?」


「え何、それ焼きもち?」


「は?」



高杉は俺の言葉にぽかんとした顔をしてこちらに顔を上げる。そして直ぐに眉間に皺を寄せた。



「冗談。何で俺がてめぇなんか好きにならなきゃなんねぇんだよ。第一男同士だろ?」



訝し気な顔を浮かべたと思ったら鼻で笑ってサラリと返答される。



「……だったら何?」



高杉の傍まで来ていた俺は中腰になるなり高杉の胸ぐらを掴み低く口を開くとそのまま大きく目を見開いている高杉の唇に自らの唇を重ねた。驚きの余り何も出来ないでいるのかそんな高杉を良いように何度か角度を変えてキスを続けるとパッと手を離す。



「ま、こういう事だから。んじゃ先生授業の続き戻らなきゃいけないから戻るわ。高杉クンも来てね」



今だに驚きの表情を浮かべたままの高杉に俺はクスリと笑う。



「ざっけんなっ、誰がてめぇなんかの授業受けに行くかってのっ……!」



口では暴言を吐くも頬を真っ赤に染めて万更でもなさそうな高杉を背に俺は扉の方へと踵を返した。ひらりと手を振る俺の口元はにやけたままだ。



「待ってるからね、高杉クン」






教師が生徒と恋愛するのが違法だなんて俺は知らない





+fin.+


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