「はい、という事で高杉は今日居残りで先生と進路相談なァ」


「は?ちょ、何勝手な事言ってンだよっ!今日は放課後約束があって……」


「はいはい、もう決まった事なんだから文句言わない。だいたい進路のプリントは今日までって前々から言ってただろうが」



う"……



流石にこれを言われるとこちらも言い返す言葉が見付からない。俺は罰の悪そうな顔付きで、怠そうに教卓で終令をしている銀八を軽く睨み付けた。しかしそんな俺を銀八は気にも止めない。



「日直っ、号令ー」



日直の掛け声でガタガタッと椅子の音が鳴りクラスメイト達は皆立ち上がる。俺も渋々少し遅れて椅子の音を鳴らして立ち上がった。そして次の号令で周りのクラスメイト達はガヤガヤと騒ぎながら教室を出ていく。



「じゃあ高杉、先生とっとと話終わらせたいから先行ってるけど、早く来いよー。お前が来ねぇと話し出来ねぇんだからな」



日直から日誌を受け取りながら口を開くと銀八はそのまま教室を出ていった。



「晋助」


「……ごめん。今日折角仕事休みだったのに。俺が進路迷ってるせいで……」



意図も簡単に大好きな恋人との約束を自分の失態のせいで取り消されてとても相手の方を見る事が出来ずただ潤んだ瞳で俯いた視線の先の机を見つめる。



「……何もそんなにがっかりしなくても。晋助はこの先もずっと拙者の一番大切な恋人でござるよ。喩え進路先がどんなに離れていてもずっと死ぬ迄一緒でござる。沢山悩んでちゃんと決める事が先決。この先どんなときでもどんな場所でも拙者と晋助は愛し合う者同士」


「なっ、何恥ずかしい事言って……っ!?」



背中の万斉のストレートな台詞にかああっと頬を熱くして口を開くと背後からぎゅっと強い力で抱き締められ、言葉が途中で途切れた。



「万斉……?」



俺の身体を抱き締める万斉の腕に微かに強い力が込められていた事に気付いた。



「晋助、拙者は本気でござるからな」



そっと耳元で囁かれた低音に心臓が高鳴る。俺は身体に回された万斉の腕をそっと抱き締め返す。



「……万斉。……嬉しい」



そっと静かに口を開くと見えるはずもない万斉の口元が微かに笑んだような気がした。



***



「やっべー、すっかり遅くなっちまった」



国語準備室から教室へと続く廊下を小走りで急ぐ。色々考えながら銀八と話していたら思っていた以上に時間が掛かってしまっていた。もうすぐ陽が沈みそうだというギリギリの夕日に照らされた教室のドアをガラッと開ける。窓側の一番後ろの俺の席で橙色に染まった万斉がサングラスを外して無防備にもすうすうと小さく寝息を立てていた。



コイツもよっほど疲れていたんだろう。書きかけの楽譜が机に散らばっていてそれを下に寝ている姿を見て思わず口元が緩んだ。起こさないようにそっと近付くとその隣にしゃがみ込んでそっと唇を重ねた。



「…………大好き」






+fin.+


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