企画 | ナノ

僕が知っているキミ

※FF零式のキャラクターが登場します。苦手方はブラウザバック推奨です※


その日はいつもと変わらない一日のはずだった。

いつもの様に、朝の鐘で目覚め、体に巻き付いたシンドバッドの腕をはがしながら寝台から抜け出し、シンドバッドのちょっかいを交わしながら着替えを済ませる。不貞腐れるシンドバッドを宥めながらも、仕事へと向かう彼を笑顔で見送り、ナマエも同じように紫獅搭を後にした。
変わりだしたのは日課になっているチョコの世話をしようとした時だった。
チョコ専用の舎に向かって、真新しい草や水を用意したところで、珍しくチョコが外に出たいと強請る。めったにない事にどうしたのかと思いつつ、軽く森を走らせようかと鞍を取り付けて、舎から出したところでチョコがいきなり走りだそうと、地面を何度か蹴り上げた。

「え?!ちょ、チョコ?!」

此方の指示も聞かずに、抑えきれないと言わんばかりの彼女に、ナマエも慌ててその背にまたがる。その瞬間に、圧倒的な脚力で地面をけり出したチョコにナマエは思わず息をのんだ。ぎゅっと胃を掴まれるような感覚に、唇を噛みしめる。風を避ける様に上体を低くしたところで、ガサリと大きな葉擦れ音が辺りに響いた。

「チョコ!どうしたの?!落ち着いて、危険だわっ」
「クエーっ」

森の中でむやみに走っては木の枝にぶつかってしまう可能性もある。手綱を引いて止まらせようとしたところで、何かを見つけたかのようにチョコがさらにスピードを上げて木々の間をを走り抜けた。

「チョコっ!まっ・・・、きゃあ!」
「クポ!」

ぼふんと何かにぶつかる音がした瞬間、チョコの歩みが遅くなる。急激に落ちたスピードに何事かとナマエが悲鳴を上げたと同時に、奇妙な声が聞こえてナマエは目を瞬かせた。

「え・・・?」

まさか、という思いと共に、恐る恐るチョコの顔の方を覗き込む。
其処に懐かしい柔らかそうな赤い球体が見えて、ナマエは唖然としたまま鞍から飛び降りた。

「クポっ!離すクポーーー!それは食べ物じゃないクポっ」
「え・・っと、・・・チョコ離して・・・・、食べ物じゃないのよ」
「クエっ」

ナマエの言葉に、首を傾げたあとチョコが咥えていた何かを離す。聞きなれた声と言葉尻にもはや不安は確信に変わっていた。

「酷い目にあったクポ・・・、飼い主はどんな躾をしてるクポ?」
「・・・モーグリ?」
「クポ?」

ぶつぶつと愚痴をこぼす、ピンクの物体がふわりと浮かび上がってきたところで、ナマエは思わず呼びなれた名前を零す。その瞬間に、くるりとこちらを向いたモーグリにナマエは思わず「なんでここに?!」と大きな悲鳴を上げた。



「また不思議な生き物を連れてきましたね・・・」

頭が痛いと言わんばかりの疲れたジャーファルの声にナマエは肩身が狭くなる。「すみません」と小さく謝れば、ジャーファルも慌てた様に、「別にナマエが悪いのではありませんからっ」とフォローしてくれた。

「それで、君は・・・」
「ボクは1組の担当モーグリクポ。ナマエがお世話になっているようで、お礼を言いたいクポ」
「もー、ぐり・・・」

ふわふわと宙に浮くモーグリを唖然とした表情のまま見つめるシンドバッドとジャーファルに、ナマエは一度小さく咳ばらいをしてから、足りない言葉の補足を始めた。

「あの以前お話しした魔導院には、各クラスに担当のモーグリがいるんです。彼らが日常生活から戦闘ミッションまで幅広くサポートしてくれています。」
「そうクポ。僕らは生徒のサポートや連絡事項の伝達を担当しているクポ」
「彼らの正式名称は、『Military Operation Organization Guidance / Logistics Expert』・・・頭文字をとって『MOOGLE』になります。」
「みりた・・・?」
「えっと・・・そのまま訳すると『軍事作戦統括・指導/補給担当官』という意味です」

ナマエの説明にもあまり的を射ていないのかシンドバッド達の表情は不可解そうなままだ。それでもモーグリには今の説明は完璧だったようで満足そうに何度も頷いていた。

「つまり僕ら無しには生徒たちのミッションも授業もままならいクポ。いわば魔導院の縁の下の力持ちクポ」
「・・・なんとなくわかった。で、彼?もナマエたちと同じくこの世界に偶々来てしまったという事か?」
「・・・この世界、クポ?」

シンドバッドの言葉に、首を傾げたモーグリにナマエは改めて、何が起こったのかを伝える。世界が違う事、この世界には朱雀も白虎もなくクリスタルも存在しないこと、そして今のところ自分たちしか同じ世界の者はいないこと。
最後まで聞き終えた後、暫くふよふよと浮かんでいたモーグリはきっかり三秒後に「クポーーー!」と悲鳴を上げて倒れこんだ。





「さっきは申し訳なかったクポ、僕ともあろうものが取り乱してしまったクポ」
「ううん、突然だもの。私も初めはすごく吃驚したし・・・」
「それにしても不思議な事があるクポ・・・。ナマエに会えて助かったクポ」

モーグリの言葉にナマエは曖昧に微笑んで見せる。ナマエの内心としては、会えて嬉しい気持ちが半分。会いたくなかったという気持ちが半分だ。自分はオリエンスを捨てた身で、それは今も揺るがない。だからこそ、純粋に再開を喜んでくれるモーグリに複雑な思いが湧き上がった。

「・・・君はナマエ達のサポートをしていた、と言っていたがそれは日常生活も、なのか?」
「そうクポ。生徒の相談に乗ったり、彼らの生活を監督したりしていたクポ。まぁ、ナマエは優秀だったからあまり手もかからなかったクポ」
「そう、なのか・・・」
「あ、でも一度だけ無断外出してこってり先生に叱られてたクポ。あの時は、まだナマエは魔導院に入学したてて1組に配属されたばっかりだったクポ、その時は明け方に男子生徒と一緒に帰ってひと騒動だったクポ」
「わーーー!!!」

モーグリの声に被せるようにナマエは大きな声をあげる。まさかそんな昔の話を突然蒸し返されると思ってもおらず、ナマエは慌てて話を遮った。

「・・・ほう、ナマエが無断外出で朝がえり・・・」
「待ってください!誤解です!」

一段と低くなった声にナマエは思わずシンドバッドに縋る様に反論の声を上げた。

「そうですよ。ナマエに限ってそんな事するはずがありません・・・」
「あ、いえ・・・その無断外出は事実です・・・・。その、新入生として配属されたときに先輩の一人と揉めてしまって・・・」
「ナマエが、ですか?」

俄かに信じられないと言う様に声を上げたジャーファルに、居た堪れなくなりながらもコクリと頷く。

「昔から、プライドの高い生徒が1組には多かったから新入生が来ると力試しに突っかかる子もいるクポ」
「・・・はい、その私も幼かったので・・・、その挑発に簡単に乗ってしまって・・・。模擬戦闘で決着をつけることになったんですが、その時に間違ってその人の大切なものを壊してしまったんです」

新入生の、しかも女生徒だからと油断したのか、突っかかってきた生徒は恋人へのプレゼントを胸にしまったまま戦闘に臨んできたのだ。結果ナマエの一撃が入ってしまい、プレゼントが壊れてしまった。
彼の過失なのだが、壊してしまった側のナマエも後味が悪く、仕方なしにコルシまでそのプレゼントを買い直しにいったのだ。無断で学院を抜け出しチョコボを駆ってコルシまで行き目当ての物を入手したまではいいものの、途中の洞窟で演習に来ていた他の組の生徒と出会ってしまった。敵に手傷を負わされて、消耗していた彼をチョコボに乗せた所為で、帰りは徒歩になってしまい、学院に戻ったのが明け方になってしまったというのが全ての真相である。

途中、底冷えするシンドバッドの視線に何度も言葉がつまりそうになりながらも説明しきると、「そうか」と表面上は明るく頷いてくれたので胸をなでおろした。

「確かその後から、ナマエはクラスにも溶け込んで言ったクポ。そういえば、その後その男子生徒から色々ナマエの事を聞かれていたクポー」
「えっ!初耳だけど・・・」
「あ、内緒って言われていたクポ。こっそりナマエの好きな食べ物とか色を教えてほしいって言われてたクポ・・・」

「ナマエ、内緒にしてほしいクポ」とのほほんと告げるモーグリにナマエは背筋に冷たい何かがつたうのを感じて、体を固くする。チラリとシンドバッドの方を盗み見ればやっぱり少しも笑っていない瞳でこちらを見つめる姿があって、ナマエは泣きそうになりがら、まだ何かをしゃべろうとするモーグリの口をそっと塞いだ。




「シン、お願いですから機嫌直してください・・・」
「別に機嫌は悪くない」

ぐっと深い溝を眉間に寄せながら呟かれたシンドバッドの言葉には全く信ぴょう性はない。
ナマエはそっぽ向いてしまったシンドバッドを宥める様に隣りに座って、くいくいと袖を引いた。

「昔の事です。それに・・・その私が男性とお付き合いしたことないのは、シンが一番知っているじゃないですか・・・」

キスをするのも、誰かの恋人になるのも、体を繋げるのもシンドバッドが初めてだったのだ。そう、恥を忍んで告げればシンドバッドの視線がようやくこちらを向いた。

「シン、せっかく2人でゆっくりできるのに、このままじゃ嫌です」
「・・・・すまない、大人気(おとなげ)なかったな・・・。別にナマエの昔の事で苛ついていたんじゃないんだ。ただ、あのモーグリが俺の知らないナマエを知っていると思うと、面白くなかった・・・」
「・・・モーグリに妬いていたんですか?」

まさか、人以外にも嫉妬すると思わずに目を瞬かせると、シンドバッドが決まり悪そうに視線を逸らした。
少し間をおいて、息を漏らすように笑いを零せばシンドバッドが恥ずかしそうにしながら「笑わないでくれ」と唸る様に呟く。

「ご、ごめんなさい・・・、でもモーグリは本当に私達にとってマスコットの様な存在で・・・、なんでも相談できて癒してくれるそんな存在だったんです」

だからこそ、いらぬ情報まで伝えてしまって、多くの生徒の個人情報を知ってしまうのだ。

「まぁ、いいさ・・・、モーグリが知っている様な情報はナマエが教えた物だろう?それは俺だって、十分知っている」

シンドバッドの腕が伸ばされて頬をなぞる様に手を滑らせた後、後頭部に回されてぐいっと引き寄せられた。

「それに、俺はナマエが知らない、君の事も沢山知っているしな」
「わ、私が知らない私・・・?」
「そうだ、例えば・・・ココだ」
「ひぁっ・・・」

すっとうなじの部分を少し強めに撫でられて、ナマエは思わず背筋伸ばして湧き上がる感覚に体を震わせた。

「本当は舐めてやるのが一番、善さそうなんだが・・・、ここを弄られるのが好きだろ?」
「やっ・・・まって、くすぐった・・・」

依然として撫でてくるシンドバッドに身をよじる様にして体を離そうとするが、勿論それをシンドバッドが許すわけがない。
更に腕の中に囲い込まれて、ナマエはピクリと反応してしまうことを止められずに、頬を染めてギュッと瞼をきつく閉じた。

「まだまだあるぞ、一つずつ試してみるか?」
「んっ・・・そこも、だめ・・・っ」

耳に息を吹き込まれながら囁かれた言葉に、ナマエは羞恥で顔を真っ赤に染めながらも、無言で甘えるように抱き付きながら頷いてみせた。




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