企画 | ナノ

似たもの同士・後編

シンドバッドに何から話すべきか、そんなことを考えながら落ち着かない気持ちで待っていたのだがいつの間にか長椅子で眠ってしまっていたらしい。ふと目を覚ました時には、横にはシンドバッドが座っていて、彼の方に頭を預ける様な形になっていた。
目を開けてすぐには現状が理解できなくて、ぼんやりと静かに酒を飲むシンドバッドを見つめてしまう。半分寝ぼけたまま「シン?」と呼びかけると、彼の琥珀色の視線が此方を向くのを感じて、ナマエは甘えるように額を肩に擦り付けた。

「目が覚めたのか?」
「・・・はい、シンはいつから・・・?」
「半刻ほど前かな、君は気持ちよさそうに眠っていたからそのままにしてしまった」
「・・ん、起こしてくれればよかったのに、私、シンに・・・」

まだ半分眠りに落ちた状態でそう呟いたところで、ナマエはぱちりと覚醒して、身を起こした。

「ナマエ?」

驚いたようにこちらを見つめるシンドバッドに、ナマエは一度息を飲み込んだ後、「シンに話がしたかったんです」と小さく囁いた。

「話か・・・どんな話だ?」

余裕たっぷりに、口元に笑み浮かべて酒を飲むシンドバッドにナマエはぎゅっと唇を噛みしめた後「昼間の事です」と囁くように告げる。

「昼間?何かあったのか?」
「・・・シン、怒っているんですか?」

全てを知っているはずなのに、知らないふりをして笑うシンドバッドに、ナマエは焦れた様ににじり寄る。酒を飲みながらどこかぼんやりとした瞳を宙に向けるシンドバッドの視線をこちらに向けようと、ぎゅっと首元に縋りついた。

「怒っている?そんな訳ないだろう。ナマエは何も悪いことはしていないんだから」
「じゃあ、なんで・・・」
「強いて言えば、苛立っているんだ。何もできない自分の力のなさに・・・」

暗く沈んだ声に、ナマエは思わず息を飲んでシンドバッドを見つめる。漸くこちらに瞳を向けたシンドバッドの目には、昏い輝きがあって目が逸らせなかった。

「ナマエが困っていても、助けることも出来ない・・・。あの男が、君の手を握った時に殴り飛ばしてやりたいと思ったよ。だが結局はあの場に姿を現すこともできないんだ」
「あっ・・・」

ぐっと体を引かれてシンドバッドの体をまたぐように座らされる。ギュッと腰のあたりにシンドバッドの腕が巻き付いて胸元に顔を落としてきた。チリっとした痛みと共に小さく噛みつかれて、思わず身体を引こうとすれば、さらに強く抱きしめられた。

「・・・この腕の中にいても、ナマエにずっと触れていても、収まらない。怒りでも、悲しみでもないんだ・・・、ナマエどうすればいい・・・」
「シン」
「どうすれば、この気持ちを収めることができるんだ」

胸に顔を伏せているために、シンドバッドの顔は見えない。けれども、彼の声は頼りなく揺れていて、ナマエは思わずシンドバッドの頭をぎゅっと抱きしめた。

「シン、お願いです。私をみて・・・」

その言葉に返事はなくシンドバッドの唇が何度も肌を滑る感覚だけが伝わってくる。そのたびに、体をわずかに揺らしながらナマエは宥める様にシンドバッドの頭を撫でた。

「シン、私はここにいます。シンの傍にいる・・・だからお願い、こっちをみて・・・・」
「・・・ナマエ」

ようやく少しだけこちらを見つめたシンドバッドの頬を両手で挟んで、瞳を逸らさないように捕まえる。しっとりと濡れる様な瞳は何故か泣いているような光沢があってナマエは溢れる愛しさのままそっと目尻に口づけた。いつもシンドバッドがしているように、何度も優しく唇を落としながら優し顔の輪郭を撫でる。最後にゆっくりと唇を合わせると待っていたといわんばかりにシンドバッドの口内に舌を招かれて絡ませた。

「っぁ・・・ん、ふぁ・・・シ、ン」

息継ぎの間に名前を零せば、シンドバッドも呼応するように腕の力を強くする。さらに近く、溶け合うほどの距離に抱き寄せられてナマエはうっすらと口元に笑みを浮かべた。

「・・・好き、好きなの・・・大好き・・・、シンがいてくれればそれでいいの。シンとこうしていられるなら、何も望みません。・・・・不安にさせてごめんなさい、シンに何も言わなかったのはこんなことで煩わせたくなかったから・・・」

ただでさえ忙しいシンドバッドに、自分の為に時間を割いてもらうのは申し訳ないし、何よりシンドバッドと共にいるときに他の男性の話なんてしたくなかった。
そう言葉をつづければ、シンドバッドの瞳が細められる。そこに宿る感情がどんなものなのかを理解する前に、シンドバッドが首をのばして再び唇を合わせてきた。

「・・・すべて知りたい。ナマエが何をしているか、何を思っているか・・・、俺以外の誰と会って、何を話をしたか。・・・・おかしいと思うか?」
「・・・・いいえ、少しだけ気持ちが、分かる気がするから・・・・」

愛する人を独り占めしたいと思う気持ちはナマエにも覚えがある。大なり小なり誰もが持つ独占欲だ。相手を思う強さに比例してどんどんとそれも増していく。
それを知っているから、シンドバッドの言葉にナマエの胸は高鳴った。愛の言葉を貰ったかのように胸が熱くなって、シンドバッドを再び抱きしめる。シンドバッドの吐息を胸元で感じながら、囁くように耳元に声を落とした。

「シン、がほしい・・・」
「ナマエ・・・」
「お願い、シン、抱いて・・・」
「・・・いいのか?優しくできないかもしれないぞ」

まだシンドバッドの中には燻る様な熱がある。そう思わせる様な低い声で唸る様に言われてナマエは、吐息だけ笑って見せた。

「いい、どんなシンでも見たいの。私にシンを感じさせてください・・・」

その言葉と共に耳をそっと舐めあげればピクリとシンドバッドの肩が震える。ナマエの胸元から顔をあげて、こちらを見上げた瞳は今までよりもずっと強かった。

「後悔するなよ」

その声と共に、喉元に噛みつくように口づけを落とされて、ナマエは駆け抜ける痛みを受け入れながら歓喜の声を漏らした。



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