企画 | ナノ

お酒と本音(王様視点)

これまでないほどに、そわそわしながらシンドバッドは自室の扉が開かれるのを今か今かと待っていた。心を落ち着けようと椅子に座り、机の上の酒瓶を呷るが酒の味も分からないまま喉を流れていってしまう。残っていた酒を全て飲み干して、ぐいっと口元を拭うと浮き立つ気持ちを宥めるために長椅子に深く腰掛けて背もたれに身体を預けた。
瞼を閉じれば先程のナマエが見せた真っ赤な顔が思い浮かぶ。酒の所為で、止まらなくなった彼女の気持ちが零した本音は、今まで聞いたことがなかった【嫉妬】というものだった。ナマエは、いつだって、理性的で感情にまかせるということをあまりしない。だからこそ、シンドバッドが酒に酔って他の女性を膝に抱いても、「酔っているからしょうがない」と苦笑を浮かべるだけに留めていて嫉妬されるという経験があまりなかった。酒で失敗する度に申し訳なく思うと同時にどこか物足りなさを感じていたことも確かで、女性達に嫉妬しないと言うことは其処まで自分を想っていないのでは、と落ち込んだこともあった。だからこそ、今夜ナマエが突然見せた嫉妬の片鱗に呆気に取られしまったのだ。
あまりにも驚き過ぎて、逃げ出すナマエを瞬時に捕まえる事が出来ずにヤムライハの元へ逃がしてしまったのは、この上ない失策だと胸中で舌打ちする。もし、あそこで彼女を捕らえていたら、今頃は腕の中に閉じ込めてとろけるほどの愛を囁いてやれたのに、と後悔が渦巻いた。
だがしかし、ヤムライハは必ず今夜中に自分の元へとナマエを返すと約束してくれた。
信頼できる仲間の言葉を信じようと、シンドバッドは自分を言い聞かせてナマエが再び戻ってくるのを今か今かと待ちわびていた。


どの位たっただろうか。
扉がゆっくりと開かれる音に意識が覚醒する。
どうやら、少し眠ってしまっていたらしく、身体はまだ思うとおりには動かせずシンドバッドは瞼を閉じたまま微動だに出来なかった。

「・・・シン?寝て、るんですか・・・?」

鼓膜を揺らしたのはナマエのか細い声だった。こちらの様子に眠り込んでいると判断したのか、安心した様な、少しだけ残念そうな空気を滲ませてゆっくりと静かに部屋の中に踏み行ってくる。真っ直ぐと此方に来たナマエの手が、此方に伸ばされて頬にふれようとした所で、シンドバッドは瞬時に瞼を押し開いて、ナマエの手を掴むとその身体を自分の方へと引き寄せた。油断してたらしいナマエは、驚きで身体を強ばらせながらも、咄嗟に身体を引いて抵抗して見せたが、そんなものは些細な障害にすぎない。総ての抵抗をねじ伏せる強さで抱き込んで、ナマエの柔らかい身体を長椅子に押し付けた。
呆気に取られたナマエの瞳を上から覗き込んで、ニヤリと笑ってみせれば彼女の顔が悔しそうに口を引き結ぶ。目元を赤く滲ませて此方を見やるナマエの頭をそっと撫でて、頬に口づければ、逃れるようにナマエの顔が逸らされた。

「んっ・・・、お、起きてたんですね・・・」
「いや、ナマエが入ってくるまでは本当に寝ていたんだ。今さっき目覚めたところだよ」

自然と浮かぶ微笑みをたたえて、ナマエの頬から首もとを優しくなぞれば、ピクリと彼女の身体が震える。恥ずかしそうに、目を伏せるナマエの眦に口付けを落とした後、そっと顎をとって顔を此方に向けさせた。

「・・・ごめんなさい」
「何で謝るんだ?」

潤んだ黒い瞳が、泣きそうなほどに水分を湛えて、眉も済まなそうに下げながら謝るナマエにシンドバッドは目を見開く。どうしたのか、と問えば彼女はふるふると首を振って話したくないというように口を噤んだ。

「ナマエ、俺は何も怒っていない。むしろ謝るのは君を不安にさせた俺の方だ。だから、教えて欲しい君が何を想っていたのか、君の気持ちを教えてくれ」
「・・・シン」

迷うように瞳をさまよわせた後、ナマエは、小さな声で喋り出した。
シンドバッドの事が好きな事。
そして、シンドバッドが多くの人に好かれている事も理解していること。
いつもはお酒に理性を蝕まれているからと、気持ちを落ち着かせる事ができたが、今日の出来事は気持ちのコントロールが出来なかった事。
本当はこっそり胸の中に秘めておくつもりだったが、お酒の所為で我慢が出来なかったこと。

「嫉妬なんてしたら、駄目なことは分かっているんです・・・。ごめんなさい、シン。私は・・・、こんなに嫉妬深いんです・・・。でも、お願い、嫌いにならないで・・・」

必死に涙を堪えるナマエが愛おしくて堪らない。こぼれそうになる涙の雫を舌で舐めとった後、彼女の唇を食い尽くす様に塞いだ。とてつもなく甘美な舌を追いかけて吸い上げる。椅子に押しつけられて居るために、逃げることも出来ないナマエはしばらく怯えるようにシンドバッドの舌から逃れようとしていたが、やがて拙く反応を返してきた。
ぎゅっとナマエの手が背に回されてすがりつく。それに応えるようにシンドバッドも彼女の身体を深く抱き込んで空気さえも間に立ち入れない程に身体を押し付けた。

「んっ・・・、ふぁ・・シ、ンっ・・・」

漸く解放してやれば、ナマエの口元はどちらか分からない唾液で赤く濡れていて、その柔らかそうな艶めいた唇に身体が熱くなる。密着した身体から伝わる柔らかな感触に眩暈に似た欲望がゆらりと立ち上がった。

「嫌いになれる訳がない。ナマエに対して俺がどれだけ想っているか教えてやる必要がありそうだな」

他の女性には感じない、この思い。様々な欲と純粋な気持ちが混じったこの感情はドロドロとしていて既に綺麗なものでは無くなっていた。

「君が欲しいんだ。ナマエ、愛している」

それでもこの思いを告げようとするならば愛なのだろう。
一度コクリと頷いたナマエに、目を細めて微笑むと、その白い喉元に吸いついた。




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