企画 | ナノ

語られない秘密

命を掛けた戦いが終わった後、アラジンを連れていくと主張した紅炎と会談の場を設けて合わせてアラジンの話を聞こうと主張するシンドバッド側とで意見が真っ二つに割れていた。紅炎は早くその歴史の真実が知りたくて堪らないのだろう、なにしろこの戦いの目的の大部分がアラジンからその話を聞く事だったのだから。それを、何カ月も待って会談の場で皆と聞くなんて事を許容できるわけもなく、一度はまとまりかけた場の雰囲気もまた怪しい雲行きを滲ませていてナマエはハラハラしながらシンドバッドと紅炎のやりとりを見守っていた。

「紅炎おじさん、ぼくもマグノシュタットの事が気になるしもう少し待っておくれよ。必ず話すから!」

アラジンの言葉にも反応を返さない紅炎に更に緊張が高まる。基本的に好戦的な人間が多いのでむしろ空気的には『望む所だ!』と言わんばかりのものがあった。

「おじさん、お願いだよ!約束は必ず果たすから!僕、嘘はつかないんだ!ね、ナマエお姉さん」
「えっ?!」

急に名前を呼ばれてナマエは予想もしておらずに慌てふためいてしまう。
どうやら、顔見知りである自分になんとかしてもらいたいのかアラジンの視線がじっと期待するかの様に此方を見つめていた。

「あ、の・・・!その・・・」
「お願いだよお姉さん!僕、どうしてもマグノシュタットに残りたいんだ」

ついには此方に駆けよって来て、切なげに訴えるアラジンに、ナマエは自分に決定権はないのだと説明するためにアラジンを見つめかえす。「あのね、アラジン・・・」と続けた所で、アラジンが「ナマエお姉さん、お願い!」と抱きついてきたものだから思わずその小さな身体を抱きとめてしまった。以前より少し大きくなった身体はそれでもまだ少年としての脆さを備えている様で、抱きついてくる腕も身体も全体的に細い。けれども以前より成長した身長はちょうど頭の辺りがナマエの胸に当たっていて、アラジンが顔を押しつけるかのように胸に抱きついてくるものだからナマエは石になったかのようにその身体を固めた。

「っちょぉっとぉ!!貴方、ナマエになにしてんのよっ!」

真っ先に我に帰ったのは紅玉だった。悲鳴に似た甲高い声をあげると依然と同じ様に引きはがそうとアラジンに手を伸ばしてくる。先ほどまで紅炎からアラジンを奪還しようと奮闘していたアリババも慌ててアラジンを引きはがしに掛かっていた。

「おまっ!ダメだって!こら、アラジンっ!」

アラジンの顔が胸の膨らみに押し付けられて、ぎゅうっと抱きつかれる。柔らかさを確かめるように、頬を寄せるアラジンの姿を見下ろしながら固まっていると、つかつかと近づいてきた紅炎が猫の子を持ち上げるかのようにアラジンをべりっと引きはがして持ち上げた。

「いいだろう、お前の条件を飲んでやる」
「ほんとうかい?!おじさん!」
「あぁ、会談はそっちで設定しろ、日時が決まったら知らせてこい」

紅炎の言葉に、シンドバッドが「そうさせてもらおう」と鷹揚に頷いた。「やったぁ」と紅炎に釣り下げられながら喜ぶアラジンに紅炎がぐっと顔をよせるとその耳元で何言か呟いていて、その後にアラジンが神妙に「わかったよ」と頷いたのを確認して紅炎はポトンとアラジンを地面に落とした。

「大丈夫か?!アラジン!」
「うん、平気さ。・・・・ナマエお姉さん、抱きついたりしてごめんよ。僕、誰にも言わないから・・・」

神妙な顔をして謝ってきたアラジンに、ナマエは漸く戻ってきた思考で曖昧に頷く。アラジンの身体が小さく震えるのが見えて一体紅炎に何を言われたのか不思議になったが、いま蒸し返したらまた話がこじれてしまうとナマエは言葉を飲みこんだ。

「此処にいても無用だ。行くぞ」

用意された絨毯に乗り込む紅炎に続いて、ナマエ達眷族や紅明達も各々の絨毯に乗り込んでいく。段々と小さくなるシンドバッド達一行を見下ろしながら、ナマエは此方に手を振るアラジンの姿を見つけて傍らにいる紅炎へとチラリと視線をやった。

「あの・・・紅炎様?アラジンに何を告げたのですか?」
「聞きたいか?」

機嫌が悪そうな声に、ナマエは思わず首を竦めて視線を逸らす。これは拙い兆候だと、辺りに助けを求めてみるが他の眷族達は皆聞こえない振りをしているのか、視線をすべて此方から外したままだった。
ぐいっと顎を取られて視線を紅炎に合わせられる。戦いの名残が残った獰猛な瞳に見つめられてナマエは思わず背を逸らせて逃げ出したくなったがそれを許す紅炎では無かった。

「あのマギにはこういった。『二度とするな』とそれから、『少しでもナマエの身体について誰かに感想を漏らしたらそいつを八つ裂きにしてやる』と。あのマギは殺せんからな」

ナマエは冷たくなる背筋にかつて、アラジンに抱きつかれた時も「柔らかかった」と周りに感想を漏らしていたことを思い出して、ぎゅっと口を噤んだ。あのとき傍にいたのはアリババとモルジアナだ。二人の未来を健やかにするためにも、この話だけは墓までもっていこうと、静かに心の中で決心した。



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