短い夢 | ナノ


「アリババ!」

陽気な午後の昼下がり、少し先に道を歩く大好きな金色の髪を見つけてあまりに嬉しくなって声をかける。彼は今ではコロッセオでも有名な剣闘士で、市民にも人気がある。それが少し楽しくない。彼の魅力に気づいたのは、私が早いと思うのに。
大好きな彼が振り向く前に、背中に抱き着いてみる。「おわっ」と情けない声を出した彼だが、さすがは剣闘士。体制は崩せど転ぶことは無かった。

「何だ、イオか。どうしたんだ?」
「アリババを見つけて、追いかけてきたの!アリババ、今日は暇なの?なら私とデートしようよ!」

ぎゅーっと腕に抱きつく。もちろん胸を押しつけることも忘れない。
初(うぶ)なアリババは最初、腕に胸が当った時には、真っ赤になって慌てて引きはがしてきたが、最近では慣れっこなのか、あまり反応を返してこない。それがちょっとつまらない気がする。
彼との出会いは、彼がコロッセオデビューをしたすぐ後だ。まだ怪我の残る身体だったのに、悪漢に襲われそうになっていた私を助けてくれたのがはじまりだった。腕をつるした状態で、しかも素手だったにも関わらず彼はあっという間に数人の悪漢を華麗に倒した彼に、一瞬で心を奪われたのだ。

「今、師匠に頼まれた、買い物の最中なんだ。また今度な」

さらりと笑って、腕を引き抜かれるとそのまま、宥めるように自分の頭に手を置いた。

「また子供扱いしたでしょ?私これでももうオトナなんですからね!」
「はいはい」
「買い物なら手伝わせて!安いお店とかいろいろ知ってるから」

イオの言葉に少し悩んだ後、アリババが買い物を記したメモを取り出して見せてくれた。
少しでもアリババの役に立てるのがうれしくて、メモを穴があくほどじっと見つめる。内容は様々だった。医療品に、食品、お酒に娯楽品。
すべてがいっぺんに揃うけどちょっとお高いお店もあるが、どうせならもっとずっと一緒に居たい。

「安くそろえるなら、それぞれの安売りのお店に行くのがいいね。まずは医療品から行こう!」

アリババと一緒に居られるのが嬉しくて、楽しくて。彼の手を引いて数歩先を踊るように歩く。もっと長くこの時が続けばいいのに。ずっとずうぅっと。

「ねぇ、アリババはいつかこの国を出ちゃうの?」

何気ないつもりで出した話題だが、アリババ「そうだな」と深く考えだした。

「一年か・・・多分二年はいないと思う」
「え?!そんなにすぐ?!」

あまりにも短い返答に、思わずアリババの方を振り向いて固まってしまった。突然立ち止まったものだから、体制を崩してしまって、後ろに倒れそうになってしまう。「わっ!」と情けない声を出したものの、倒れ行く身体はどうにもならなくて。次に来る衝撃に覚悟を決めたときだった。軽く握られていた手を、ぎゅっと握り返されて身体を強く引かれる。一瞬の圧迫感の後、アリババの胸の中にいた。
あったかい。そして、アリババの香りがふわりと香って、ぎゅっと胸が締め付けられる。
好き。大好きだ。

「あっぶねーな。ちゃんと前みろよ」
「ご、ごめん」

離れてから笑って文句を言うアリババに、自分の頬が赤くなり体温が上がるのを感じる。思わず笑顔に見とれそうになって、頭を振り、先ほどの会話の方に意識を戻した。
レームにいるのは長くて二年だなんて。
あと長くても二年しか一緒に居られないなんて。

「故郷(くに)に・・・帰るの?」
「いや、ひとまずはお世話になってる人のとこかな」

「友だちとも待ち合わせしてるし」とニッとわらうアリババとは反対に、イオの眉は下がる一方だ。

まだ、アリババと出会って数カ月。アリババが今までに出会った人にまで嫉妬するなんてナンセンスな事は分かっている。でも、まだ見ぬ彼の友人は、きっとこれからもこの人と一緒に過ごせる。ずっと一緒に居られる。でも自分はあと二年。いや、早ければ一年以内にも此処を去ってしまうかもしれない。

涙がこぼれそうになって、イオはアリババから視線をはずして、再び歩き出した。

楽しいはずの買い物が、なんだか気分が乗らない、もやもやして涙が流れてしまいそうになる。アリババの話に無理やり笑顔を作って頷く。
なんとか、大量の買い物を終えて、とても持ち切れない量の品物にイオもヤンバラの剣闘士養成所までついていって手伝った。

「今日はありがとな!助かった!」
「ううん。アリババの力に慣れてよかった。今度は!絶対にデートしようね!」

「おぅ!まかせとけ」と笑う姿に、イオも素直に笑顔を浮かべた。
先の事を悩むよりも、今を楽しもう、いつか来る別れに後悔しないように。
そう決めて、笑顔で彼に手を振ると少し赤くなった道を家路へと引き返す。

ふと、空にキラキラと光る鳥を見つける、何かなと視線で追っているうちに、その鳥は此方へと飛んでくると、スッと自分が着けていた首飾りへと吸い込まれていった。

「な、なに?!」

慌てて、首飾りを外して確認してみるが特に変わった事は無い。

「白昼夢・・・かな・・・?」

よくわからず、首をかしげるが特に何も変わったところは無いのでそのまま身につけて、また歩き出す。
今度はもっとアリババの役に立とう。
彼の為になりたい。
心に決めてイオは足取り軽く、夕暮れに染まる町を進んでいった。



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アリババが好きすぎて、眷族になっちゃう女の子





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