短い夢 | ナノ


「こうして、お姫様は王子様と結婚して、いつまでもずっと幸せに暮らしましたとさ」

ぺらりと最後のページがめくられた後、優しい声で「おしまい」と言われてシンアは、ほぅっと息を吐いた。綺麗な挿絵が書かれたその絵本を閉じると侍女がにこりと笑う。

「さぁ、シンア様。ご本が読み終わったので約束通りお勉強をしに行きましょう」

その言葉に、シンアは素直に頷くと彼女の手を握り、てくてくと黒秤塔へと歩き出した。「今日は、歴史のお勉強ですね。ドラコーン様が教えてくださいますよ」そう、シンアに笑いかけながら歩いていた時に、ふと思いついたようにシンアが疑問を口にした。

「ねぇ、『けっこん』ってなに?」

その言葉に、首を傾げた侍女にシンアは焦れたように口を尖らせる。

「さっきのお話でおヒメ様はオウジ様と『けっこん』して幸せになったって・・・」
「あぁ、結婚というのはですね、好きな人とずっと一緒にいると誓う事ですよ」
「ちかう?」
「約束すると言うことです」

幼子に言葉を教えるのは難しいと侍女が苦笑を浮かべると、シンアは考えこむように視線をつま先へと向ける。

「大好きな人ならだれとでもケッコンできるの?」
「結婚できるのは一人とだけですから。誰とでも・・ではないですね」
「そっかぁ・・・。一人とだけ」

そう言葉を零したまま、無言になったシンアに侍女は首を傾げる。彼の頭の中がケッコンで一杯になっているとは露知らず彼女は黙って彼の手を引いた。




日も落ちた頃、珍しく早く仕事が終わったシンドバッドと一緒に部屋で寛いでいた時に前触れもなく扉が開いて、視線をやれば案の定シンアがちょこんと顔を覗かせていて。最近シンドバッドを真似て後ろ髪を少し伸ばしている彼の髪がぴょこりと揺れていた。

「イオ、いる?」
「おかえりなさい、シンア。お勉強はちゃんとできた?」

椅子から立ち上がって、シンアへと手を広げればその小さな身体が扉からするりと通り抜けてくるとがばりとイオのふとももに抱きついた。

「ちゃんと出来たよ!ドラコーンさんに教えてもらったんだ!」

今日習った事なのか、レームがどうの、パルテビアがと口にするシンアにイオもシンドバッドも目じりを下げた。

「偉いぞ、シンア。」
「父様、ぐりぐりしたら痛いよー」

多少乱暴に頭を撫でたシンドバッドにシンアが抗議の声をあげるのを聞いてシンドバッドと二人で微笑み会った。

「あ、そうだ!それでね、イオにお願いあってきたんだ」
「私に、何かしら?」

首を傾げてシンアを見つめれば、彼は自信満々に輝く様な笑顔を浮かべてみせた。

「イオ、ぼくとケッコンして!」
「・・・え?」

その言葉に目を瞬かせると、シンアがすっと手を差し出す。その手がイオの手をすっと捕えると、小さな手でぎゅっとイオの指を握った。

「ぼくとケッコンしてくれるでしょ?」

イオが頷くことを疑わない様に言われた言葉に、イオが茫然としていると、横から慌てたような、怒ったような声でシンドバッドが声をあげた。

「シンア!お前、意味を分かって言っているのか?」
「もちろん、けっこんは大好きな人とずーっと一緒にいるって約束することなんでしょ?ぼく、イオとけっこんするって決めたんだ!」

胸を張るシンアに、シンドバッドが一瞬口ごもった。

「し、シンア。結婚は一人としか出来ないのよ。だからシンアの結婚はもっと後にとっておかなくっちゃ」
「そんなことないよ!ぼくがずーっと好きなのはイオだけだもん!イオだけとケッコンしたい!」

ストレートな言葉に、子供の言葉とはいえイオの胸も暖かくなる。「シンア・・・」と感動したように目を潤ませるイオにシンドバッドがあたふたと焦り出した。

「ダメだ!ダメだ!!イオは俺のものだから、シンアといえ結婚は許さん!」
「えー!!イオは僕のだよ!ずっと僕の傍にいてくれるんだもん!」

ぐいぐいと、それぞれに近い腕を引っ張られてイオは困った様に眉を寄せた。どう考えてもシンドバッドの方が力が強いので彼に引きずられない様に足に力を入れているが、反対側からもシンアがぎゅっと手を掴んで引っ張っていて。「こら、シンア手を離せ!」「父様こそ、イオから離れてー!」と二人で言い合う姿に、イオは苦笑を洩らした。

とても困っているが、すごく幸せで。
暖かい気持ちに包まれて、イオは思わず空気を漏らす様に、ふふっと笑った。







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