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0夜 氷と星のセレナーデ



竜巻より衝撃的な物は、戀と答えてみせる。死と同等な物は――裏切り。永遠の秘密は、初戀に間違いない。そして、この世の所有者は……


少年は、文庫本サイズの詩集を閉じた。白く痩せ細った手には、余りに大きな詩集だ。それは本棚へ乱雑に戻され、無言を極めている。


「……あ。電球、切れたそう。オトナに言わなきゃ」
この部屋の電球は、基本的に夜しか点けていない。昼間に電気を点けると、少年と同世代の子供たちが迷い来んでしまうのだ。その原因は、少年が一番よく知っている。
「動物園のパンダじゃないんだけどな……」
苦笑した、少年。その行為に反応する者は、一人とて居ない。
「コドク、こどく、孤独……」
繰り返し言葉を発することで、自分の言葉になりそうな気がした。少年は、また「孤独」と呟く。先ほどの詩集に挟めてある、栞にこっそりと文字を書き足した。言葉は勿論――。下手糞な字が躍っている栞。少年の秘密の道具がまた一つ増えた。


「今日のノルマ達成っと」
彼の小さな使命。それは、一日一個でも秘密を創ること。そうすることで、人間の深みが増すような気がしている。
少年が大きく伸びをしたところで、オトナが部屋へやって来た。
四畳一間の部屋は、大人が一人来るだけで一気に狭くなる。少年はこの瞬間がたまらなく好きだ。小さな小さな部屋だけれど、埋め尽くしたような……感覚。まるで、この世を支配したような感覚。大袈裟を言っているつもりはない。子供に限らず、一個人の世界なんて自分の視界の範囲内でしかないのだから。畳に言いかえれば、二畳分程しかないのではなかろうか。それなのに、小さな少年は今四畳分も支配している。
「お元気そうで安心しました。菜傘様がお亡くなりになられて、随分塞ぎこんでらっしゃいましたから」
「おかげさまで」
少年は小さく笑う。楽しくも嬉しくもないのに、出す笑顔をなんというか――よく知っているつもりだ。
オトナは満足そうに頷いた。
「我々の計画に貴方様のお力が必要なのです。さあ、外用のお召し物を」
今度は少年が頷く番だ。
「やり遂げて見せる……世界征服だろうが理想国家建国だろうが、復讐だろうが」
「頼りにしていますよ。神子様……いえ。マサリ様」
差し出された手を取る少年。オトナと、子供の体温が溶け合う。それは、後に秘密の契と化す。


少年は未だ知らなかった。詩集の最期も、自分の進むべき指標も、解放すべく存在も、己の小ささも。何もかも知らなかったのだ。だから「少年」であることも――知らない。


四畳一間の部屋には、誰も居ない。影が伸びているだけであった。










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