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名無しの関係



神音 爽乃は、バレッタで髪の毛をびっちりと纏めた。今日は有休を取ってある。貴重な一日オフは、部屋の掃除に使おうと決めた。普段からそんなに散らかしはしないが、埃が気になる。物持ちでもあるので、掃除を始める度要らないものが出て来ているように思う。
「この写真立て……」
学生の頃の弁論大会か何かの参加賞だった。木製の何処か手作りの温かみがある写真立て。中に写真は、廃棄してしまった。
「兄さん」
「廉也がどうかしました?」
「ひゃあ!」
「……そんな素っ頓狂な声あげなくても」
「すみません」
魔物退治部隊の統括者イニシター リーランドが、手にホッチキスをぶら下げながらやって来た。
「すまんね。長いこと借りてて」
「最後に見たの1年前ですよ」
「もうそんなに経つっけ?」
「はい」
「あー。使いやすいホッチキスだから、つい」
罰が悪そうに突き出されたホッチキスは、やけに冷たく大人しかった。
「他にもご用があるのでしょう?」
「まあ、ね。申し訳ないが、例の件は俺個人の問題なので協力は要らないわ」
「相手は宗教団体ですよ?どんな手段を取るか分かりません」
「それでもさ。巻き込みたくないのよ」
「なにを言いますか。その為に私がいるんですから」
「真面目だねえ。いいんだよ。けじめを付けたいだけ。言わば、自己満足なんだから」
ポツリポツリと語ったイニシターの目は、何処か寂しく感じてしまった。
「どうか、ご自身の所為だとかは思われないで下さい。兄さんは」
「元から壊れてた。とか、言うのかね?」
「あ」
「言えないだろ。中途半端な慰めは困るよ」
「すみません」
「いいけど。そうだ、お茶飲ませて貰っていい?高いヤツね」
「かしこまりました」
私と彼は、他人だ。他人だけれど、お互い踏み込み合っている。友と呼べるような、理屈を抜きにした相柄でもない。ましてや恋人でもない。
「まあ、爽乃嬢が気にすることではないよ」
「そんな」
「あいつも俺も、譲れなかっただけさ。餓鬼の喧嘩の延長よ、これ」
そう言って、自嘲気味に笑った彼の横顔はまるで他人を見ているようであった。妙に綺麗で見入ってしまったことは、自分の心の内に留めておこう。








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