朝起きて下に降りるとそこにはおばさまだけがいて、ビル兄さんは今朝早くエジプトに戻っていったと聞いた。それから熱い紅茶を一杯いただいて、おばさまと一緒に朝ごはんの支度をはじめた。 NO LIFE 「それじゃあね、ママ」 「しっかりね、ジョージ」 「ママ、僕フレッドだよ」 「あら、ごめんなさいねフレッドちゃん」 「冗談だよ、僕がジョージ」 「僕がフレッド」 「からかうのはやめてちょうだい!」 「おばさまちがいますわ、あっちがフレッドでこっちがジョージ」 「ちぇっ、ばれたか」 「もう、どっちだっていいわ!」 「「ひどいや、ママ!」」 懐かしいやりとりのあとにうるうる今にも泣き出しそうな(でもちょっとぷりぷりしてる)おばさまと1人ずつハグをする。フレッドとジョージはほっぺたにキスをもらったことがいやだったのか、少しだけ眉をひそめたのがおばさまの肩越しに見えた。 「カノンも、きのう言ったことを忘れないでちょうだい」 そう言ってぎゅっとハグしてくれるおばさまの背中に手をまわすと、きょとんとした顔のフレッドとジョージが「きのう言ったことって?」と声をそろえて言ってきて、おばさまと一緒にいたずらっぽく笑って「おんなの秘密よ」と言ってみせた。 「じゃあおばさま、いってきます」 にっこり笑って見送ってくれるおばさまをしっかり見たあとにエメラルドの炎が燃える暖炉の中に入る。『ダイアゴン横丁』と言うと視界は隠れ穴からぐるぐる変わって漏れ鍋になった。ローブについた煤を払いながら暖炉から出ると、いつものようにグラスを磨くバーテンのトムがにっこり笑った。 「おかえり、ミス・ハプシュタイン」 「ただいま、トム」 そのあとすぐに帰ってきたフレッドとジョージと並んで漏れ鍋を出ると、なにやらニヤニヤした顔の2人はローブの内側から1枚の羊皮紙を自慢気に取り出した。『忍びの地図』、はハリーにあげたはずだし、注文書は全部お店に置いてきたはず。この羊皮紙がなんだかわからなくてきょとんとしていると、フレッドとジョージはこほんとわざとらしく咳をした。 「これは求人広告である」 「求人広告?」 「そう、我々は店を手にした喜びである重要なことを忘れていたのだ」 「重要なこと?」 「「従業員がいない」」 「3人もいるじゃない」 「残念ながら俺とジョージは店長だ」 「よって従業員ではない」 「わたしは?」 「「カノンはマスコット」」 「は?」 「だから我々はこうして求人広告を作ったのである」 「そしてこれを掲示板に貼るのである」 そう言うとフレッドは手に持っていた羊皮紙を町の掲示板に貼り付けた。すると羊皮紙は真っ赤に染まって、その上に金色で書かれた「ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ悪戯専門店 従業員募集! 興味のある方はお早めにダイアゴン横丁93番地まで」という文字がきらきら光って踊りはじめた。2人が作ったにしては見た目と書いてあることがまともで少し感心した。 「きのう作ってたのって、これだったのね」 「俺たちだってちゃんとやるときゃやるさ」 「そうみたいだね」 「あれっ、知らなかったの?」 「そんなの、知ってたに決まってる」 にっこり笑ってみせるとフレッドとジョージもにっこり笑って、わたしたちはそこから走ってお店に向かった。ちらっと振り返ってみると、2人お手製の求人広告は太陽の光を受けてなおさらきらきら光輝いていた。どうかいい従業員さんが来てくれますように。 101119 |