「聞いた時はあきれて物も言えませんでした。でもまあ、そうね、いいわ。あなたたちがそこまで言うのなら、やれるだけやってみなさいな」

笑いながらやさしくため息をつくおばさまに、わたしたちはすぐに立ち上がって3人同時におばさまにハグをした。







NO CALL
NO LIFE








「さあさ、今日はもう遅いから泊まっていきなさい、ビルもお夕飯くらいは食べていってくれるんでしょうね?」

おばさまの言葉に全員がこっくりと頷くと、おばさまはにっこり笑ってキッチンに消えた。ビル兄さんは明日にはエジプトに戻らなくてはいけないらしくて、フレッドと二言三言話すと準備があるからと言って自分の部屋に上がっていってしまった。

「親父はまだしも、まさかお袋にまでこんなにあっさり許してもらえるとは」
「思ってもみなかったな、拍子抜けだ」
「ほんとうによかった」

2人の話に相槌をうちながら、がさごそとローブのポケットの中からヘアゴムを出して髪をひとつに結ぶ。「なにすんの?」って聞いてきたフレッドにへにゃりと笑ってみせるとジョージにすかさず「だらしない顔」ってつっこまれた。まったく、いちいちうるさいおとこである。

「おばさまのお手伝い」
「おまえ、偉いな」
「あら、ここに来た時はいつもやっているけれど?」
「ほんとうにいい嫁になるぜ、なあジョージ」
「どうもありがとう」

ローブをくるくる丸めてイスに引っ掛けると、フレッドとジョージは階段に足を掛けつつわたしの方にくるんと振り向いた。

「俺たち部屋にいるから」
「飯になったら呼んでくれ」
「わかった、くれぐれも部屋を壊さないようにね」
「さすが!」
「わかってらっしゃる」

ニヤッと笑って階段を掛け上がっていく2人の背中を見送ったあとに小さくため息をついた、どうせまた新商品の実験やらしに行くんでしょう。おかげで2人の部屋はすっかり火薬の匂いが染みついている。キッチンに入るとおばさまが忙しそうに杖を振っていて、がしゃがしゃ音をたてる鍋に負けないような大きさの声をだした。

「おばさま、手伝います」
「いつも悪いわね、ありがとう」
「いいえ」

にこにこ笑いながらわたしも杖を振っているとおばさまは急に黙り込んでしまって、ぐつぐつ音をたてる鍋の火を調節しながら振り向くと、おばさまはじっとこっちを見ていた。なんだろうと小首をかしげると、おばさまは「あー」とか「うー」とか言ったあとに苦笑しながら口を開いた。

「カノン、無理はしてない?」
「えっ?」
「確かにあなたとあの子たちは特別に仲が良いけれど、まさかあなたまで一緒に退学するとは思わなかったから」
「あの、すみません…」
「あなたを責めてるんじゃないのよ。ただ、あの子たちに無理に付き合わされてるのなら、」
「それは違いますわ、おばさま」

くるくると鍋の中身をかき混ぜつつおばさまに視線を移すと、おばさまは不意を突かれたように目をぱちぱちさせていた。

「わたしはわたしの意志で2人についていくことを決めました、2人に無理矢理付き合わされているわけではありません。しようと思えば、あの時2人の手を取らないで学校に残ることもできました。それでも2人と一緒に行くことを選んだのは、まぎれもなくわたしの意志です」

小さい頃にお母さんから習ったミートパイを作る手を休めて、目の前にある窓から空を見つめる。ほんとうは、少しだけ怖かったんだ。いつか2人がわたしを置いてどこかに行ってしまうんじゃないかって。どこか知らない2人だけの世界に、わたしはいらないんじゃないのかって。怖くて2人にも聞けなくて、だからこそあの時、ジョージが手をのばしてくれたことがとてもうれしかった。わたしは2人の隣にいてもいいんだって思えたんだ。
くるんとおばさまの方を向いて笑ってみせると、おばさまは少し俯いてそれからわたしを抱きしめてくれた。びっくりして目をぱちぱちしていると、おばさまの肩が少しだけ震えた。

「つらいことがあったり、あの子たちに嫌なことをされたりしたら、いつでも戻ってきていいんですからね。あなたはわたしたちの家族で、ここはあなたの家なんですから」

そう言って笑ってくれるおばさまに、わたしは目の奥がつんとして、潤んできた目を見られたくなくて何度も何度も頷いた。

「ありがとう、おばさま」
「さあカノン、料理を仕上げなくちゃね。今日はごちそうですよ」
「はい!」


101106

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