「んんー」 まぶしい光に身をよじってうでを持ち上げて光を遮るように両目の上に翳す。とんとん小さい足音が聞こえてきたかと思うとかちゃんと部屋のドアが開く。なんだもう朝か、でもまだ起きたくなくてベッドの上でごろごろ転がっていると、家中に響きわたるほどの叫び声にいやでも目が覚めた。 NO LIFE 「なんだどうしたなにがあった」 ばたばた走って急いでフレッドの部屋のドアを開けてみて唖然。フレッドはベッドの上でうつ伏せになって伸びていて、フレッドとベッドの間からもそもそでてきたのはほっぺたをふくらませて口をぎゅっと結んだカノンだった。カノンはベッドから起きあがると床に落ちた杖を拾って、それでフレッドの後頭部をつつくとくるんとこっちに振り向いた。水色に近い銀髪が朝日にきらきら反射して、それとは逆にほっぺたは少しだけ赤い。 「おはようジョージ」 「ああ、おはよう…」 「ごめんね、今から起こしにいこうと思ってたんだけど」 「いや、それはいいんだけど…あの、どうしたの?」 「なんか叫び声が聞こえたんだけど」と言うとカノンは「ああ」と頷いたあとに横目でフレッドのことを睨み付けた。 「叫んだのはフレッド」 「フレッド?」 「起こそうと思ってベッドに近づいたら中に引きずり込まれたのよ、『アンジェリーナ、俺が悪かったよ許してくれ!』ってね」 「なんだって!?」 「だから一発殴ってやったら、今に至る」 そうフレッドの声真似をしながら言うカノンは相当ご立腹らしい、もそもそ動きはじめたフレッドの髪の毛をくしゃくしゃにしてから、ドアの向こうにでてくるんと振り返った。 「フレッド、わたしはアンジーじゃないし朝からアンジーに如何わしいことしようとしないで」 「ああ、悪かったよカノン」 「ジョージも、はやく下に降りてきてね。今日はまず家の掃除しなくちゃ」 「うんわかった」 「それから2人共、はやく服着て」 そう言うなりカノンは階段を降りていって(顔が真っ赤になってるのを僕は見た)僕もそこではじめて自分が上半身はだかで下は制服のズボンだということに気がついた。そういえばきのう制服のまま寝ちゃってて、夜中に起きた時に上だけ脱いだんだっけ、と働くようになってきた頭で考えた。どうやらフレッドも同じ成り行きだったのか上半身はだかで、2人して苦笑した。まったく、双子とは恐ろしく似るものだ。 「なあカノン、ごめんって」 「フレッドが朝からあんなことするなんて思わなかった」 「違う誤解だ。夢だ、夢のせいなんだ!」 「なんていう夢を見てるの!」 「夢にアンジェリーナがでてきて泣きながら俺に抱きついてきたんだ、そんでもってキスまでねだってくるもんだから」 「アンジーを汚すなあああ!」 カノンが買ってきてくれたタマゴサンドを食べながら、朝からフレッドとカノンのコントを見るのもなかなかおもしろい。「アンジーがかわいそう!」って言ってぷりぷり怒るカノンの頭をなでると、むっとした表情のあとにおとなしくなった。それを見てニヤニヤ笑ったフレッドにミニトマトが直撃した、我が兄弟ながらまったくばかなやつだ。 「あ、ココ」 窓の外にカノンの真っ黒な愛フクロウのココが飛んでくるのが見えた。カノンが立ち上がって窓を開けると、ココはすいっと中に入ってきてカノンの肩にとまると脚を突き出した。 「手紙?」 カノンが手紙を外したあとにココの嘴をなでると、ココはうれしそうに「ホー」と鳴いてカノンの指をはむはむしたあとに家の中に飛んでいった。きっとはやくカノンの部屋で休みたいんだろう。ずるずる紅茶をすするフレッドとカノンを見ると、手紙を開けたカノンが小走りで戻ってきてイスに座った。 「モリーおばさまから、はなしがあるから今日中にいらっしゃいって」 はい、と手紙を渡されて見てみるとたしかにお袋の筆跡でそう書かれていて、3人で顔を見合わせたあとに、はあっとため息をついた。今日は長い1日になりそうだ。 101020 |