「アクシオ!箒よ、来い!」

きれいにそろった2つの声のあとにびゅんっと風を切る音が聞こえる。呼び止めるアンジェリーナの声を背中に受けて気づいたらわたしの脚は動いていて、周りにいる生徒たちの間を全速力で走って抜ける。その間にもう2人は箒に跨がってしまっていて、こぼれそうになる涙をこらえながら2人を見上げてもひとの頭がじゃまでよく見えない。大きく起こる歓声、喚くアンブリッジにもう手遅れかと思って俯いたとき。急に開けた視界に入ってきた顔に、申しわけなさそうに下がった眉とわたしをまっすぐ見つめる瞳に、優しくかけられた言葉に、わたしの涙はついに流れた。

「おいで?」

ジョージの手をとらないなんて選択肢、わたしの中には最初からなかったの。







NO CALL
NO LIFE







「おい見たか、あのアンブリッジの顔」
「ああ見た、最高だったな」

びゅんびゅん耳のすぐ横でうるさかった風の音が止んで、ぎゅっとつむっていた目を開いてジョージのひょろい背中に押しつけたままだった顔を上げた。頭のすぐ上にはいろんなものから解放されてすがすがしそうに笑うジョージの横顔があって、そのすぐ隣を飛ぶフレッドも同じ顔をして笑っていた。わたしの目が開いていることに気がついたフレッドは、少し申しわけなさそうにしてくしゃりと笑った。

「ごめんな、いきなり」
「ほんとうにね」
「耳は?大丈夫?」
「あいかわらず飛ぶの速いのね、耳がいたい」

「まだ耳鳴りが止まないの」って言ってくすくす笑うとフレッドもジョージも一緒になって笑った。こうやってジョージの箒のうしろに横向きになって2人乗りするのももう何回目だろう。さっきこぼれた涙はすっかり引っ込んで、涙が流れたあとのほっぺたが風に乾いてぴきぴきする。きらきら夕日が反射してまぶしい湖を眺めたあとにくるんと顔の向きを変えてもうずいぶん小さくなってしまったホグワーツ城を見た。みんなでごはんを食べた大広間、すばらしいクディッチが行われた競技場、眠くなるまでずうっとおしゃべりをしていた談話室。ほかにもたくさんの思い出をくれたホグワーツ。わたしと2人がほんとうに長い間お世話になったホグワーツから離れるのはとても悲しい。アンジェリーナは大丈夫だろうか、きっとわたしたちが勝手にいなくなったことに怒って泣いているんだろうな。それをリーやアリシアが悔しそうになぐさめて、ハリーたちにもきっとたくさん迷惑がかかってるにきまってる。あとでちゃんとみんなに謝らないといけないなあ。

「後悔してる?」

わたしがホグワーツ城を眺めていることに気づいたのか、ジョージが目線だけをうしろに向けて言った。それにつられてフレッドまで心配そうにわたしの顔を覗き込んでくるものだから、ついおかしくなってくすくす笑った。2人がそろってこんな顔するなんて、似合わないくせに。

「ううん、ただ、アンジーたちが怒ってるんだろうなって」

そう言ってちらっと横を見ると、うげっだなんて言って顔をしかめるフレッドがいて、追い討ちをかけるように「特にフレッドはボッコボコにされるだろうね」って言うと想像できたのかジョージが吹き出した。
箒はすいすい飛んで気がつけば下の方に小さくキングズ・クロス駅が見える。ほんとうに飛ぶことがうまい2人はそのままゆっくり下降していってきょろきょろまわりを見ながらきっちりと駅の9と3/4番線のホームに着地した。

「怒るといえばさ」

すとんと地面まで残り1メートルのところでジョージの箒から飛び降りて地面に足を着けて立ったのと同時にフレッドがそう言って、まったく困ったぜみたいな顔をして肩をすくめてみせるものだから、わたしとジョージはわけがわからなくてまばたきを2回した。

「カノンも一緒だって知ったら、お袋のやつ、きっとブチ切れるぜ」
「あーたしかに、カノンも覚悟しといた方がいいな」
「あら、そんなのもうとっくにできてるわ」

しれっと答えてみせると案の定2人はぽかんとして、2つの同じ顔がわたしの顔を覗き込んだ。

「2人の幼なじみになった時から、わたしは2人と運命共同体だわ」

そう言ってにっと笑ってみせるとフレッドとジョージもしばらくしてお互い顔を見合わせてニヤッと笑う。それからまわりにだれもいないことを確認して ばちん!と大きな音をたててわたしたちは『姿くらまし』した。行き先はもちろん、我らが新店舗。


101020

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