「パイアス・シックネスが寝返った。計画Aは中止、計画Bに移る」

アーサーおじさまの声でそう言って消えたイタチの守護霊に、わたしはフレッドとジョージと顔を見合わせた。計画実行が午後に迫った、7月のある土曜日のことだった。







NO CALL
NO LIFE








「とりあえず、俺たちは隠れ穴に行く」

ばたばたと準備をはじめるフレッドとジョージの邪魔にならないようにしながら2人を手伝う、家の中は呼び寄せ呪文で呼び寄せられたものたちがびゅんびゅん飛び回っていた。今回の計画では、わたしは待機、事実上の不参加を言い渡されている。わたしよりも年下のロンとハーマイオニーは参加するというのに、わたしは不参加ということに納得がいかなくて抗議をしたけれど、マッド-アイに説き伏せられてしまった。みんなが危険なことをしているというのに、わたしはそれを黙って待っていることしかできない。それがやっぱり悔しくて無意識のうちに下唇を噛んでいると、いつの間に呼び寄せたのか箒を手にしたフレッドとジョージがわたしの顔を見つめていた。

「ねえ、やっぱりわたしも」
「「だめだ」」

まだ最後まで言っていないというのに、わたしの考えていることがわかったのか、フレッドとジョージはそろって首を横に振った。

「マッド-アイに言われたろ」
「カノンは待機だ」
「でも、わたしだって騎士団員なのに」

自分が計画に加わることによってすべてのことがうまく進むなどとは思っていない。ただ、在学中は一応でも首席だったし、闇の魔術に対する防衛術はそれなりに得意だった、DAのメンバーでもあったのだ。それらすべては、こうなった時のために少しでもみんなの力になれればと思って、なにより年々大きくなる闇の力から大切なものを守りたいという一心で学んで身につけたものだ。それなのに実際こうなった今、力になれないのがとても悔しい。それともそれらはぜんぶ、わたしの自惚れだったのだろうか。

「カノン」

不意にわたしの頭の上に大きな手のひらがのせられたけれど、わたしはなぜだか顔を上げることができなくて、俯いてスカートの裾をぎゅうっと握ったまま下唇を噛んで自分の爪先を見つめた。

「そんなに落ち込むことないぜ」
「今回の計画にはカノンは向いてなかった、それだけだ」
「ああ、なんせカノンは箒が下手くそだからな」
「まだ覚えてるぜ、1年生の時のあのカノンの飛びっぷり」
「あれは確かにすばらしかった」
「もちろん、別の意味で」

そう言ってケラケラ笑いはじめるフレッドとジョージにやたら腹が立つ。なんなのよこの2人なんなのよ。文句のひとつでも言ってやろうと思って顔を上げると、2人の表情にわたしの心臓はどきんと跳ねて、なくなるイライラとは逆になにかがぶわっと込み上げてきて胸があつくなる。わたしの正面に立つフレッドとジョージは、さっきまでの馬鹿にしたようなケラケラ笑いとは打って変わってとても優しいふんわりした顔で笑って「でも、」と続けた。

「俺たち、ほんとうはすごく安心してる」
「あ、んしん?」
「ああ、これでカノンが怪我する心配はしなくていいわけだ」
「大切な幼なじみになにかあっちゃ、俺たちゃ正気じゃいられないからな」
「それに、カノンがここで待ってるって知ってたら、ぜったいに帰ってこなきゃって気持ちになるだろ?」
「カノンをひとり残していなくなるわけにはいかないからな」

そう言ってにっこり笑ってフレッドとジョージはわたしの肩にそれぞれ手を置いてぽんぽんと軽くたたいた。ほんとうに、なんなのよ、この2人。わたしはじわじわあつくなる目頭を隠すようにして、半ば飛びつくように2人に順番にハグをした。

「2人共、気をつけて」
「ああ」
「わかってる」
「ぜったいに帰ってきてね」

永遠の別れになるわけでもないのに、まだうるうるしている目でしっかりとフレッドとジョージを見送る。少しだけ輪郭がぼやけて見える2人は、お互い顔を見合わせたあとにわたしに向かって悪戯が成功した時のようなとびっきりの笑顔で応えた。

「「もちろんさ!」」

そして ばちん!と大きな音をたててフレッドとジョージは『姿くらまし』をして行ってしまった。急に静かにひとりぼっちになってしまったわたしは、ついに流れてしまった涙をそのままに2人がついさっきまでいた場所をしばらく見つめていた。

「ぜったい、帰ってきて」

顔を真っ青にしたジニーが家に飛び込んで来るのは、それからほんの数時間後のことだった。


100320

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